長編

□05
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「デートしようぜ。」


それは何の前置きもなく、本当に突然の言葉だった。
二口とオツキアイを始めて数週間が経過して、私たちの関係が周囲に知れ渡り、落ち着いた頃のことだ。


「突然、どうしたの?……っと。」


毎日の部活を終え帰宅し、夕食を胃に流し込みお風呂で一日の疲れと汗を流して、自室でだらりと微睡んでいた時、視界の端で携帯がチカチカと微かに瞬いた。
こんな時間にメールしてくるやつなんて誰だろう、と重たい腕と瞼を動かしてみたところで冒頭の文字列が目に飛び込んできた。その異様とも思える一文に軽くため息を吐きながら何のひねりもない返事を打ち込むとすぐにピリリ、と可愛げの無い着信音が部屋に響く。


「……もしもし?」
「おう、貴女の愛しのダーリン、二口堅治クンですよー!」


繋がったばかりの通話はすぐに途切れた。……もちろん、私が切ったのだけれど。
いやー、間違い電話ってあるものだなぁ、なんて現実から逃避したことを考えていると再度鳴り響く可愛げの無い着信音。ため息をまた零して通話ボタンに触れた。


「いきなり切るなよ!」
「……間違い電話だと思って、それか詐欺。」
「二口って名乗ったよな!?」
「何ていうか、二口って夜にテンション上がる人?私、今眠くてさー……すごく鬱陶しいんだけど。」
「あー、うん。自分でもうざかったなぁ、とは思う。ごめん。」


心の底からの嫌悪感を声に乗せてやると二口は素直に謝罪を口にする。電話越しに聞こえるその声はいつもより少しだけ低く聞こえて何だか聞き慣れない。そういえば二口と電話するのって初めだったんじゃない?なんてことに思い至って笑いが込み上げる。


「何、急に何で笑い出した?」
「いや、さっきのが二口との初電話だったって今気付いた。」
「え?……あー、ホントだ。一年以上仲良くしてんのになー。」
「普段近くにいるしねー。」


それこそ朝練の時間から授業中、放課後まで。一日の大半を共に過ごすだから何かを伝えるのに機械を通す必要などほとんどない。どうしても何かあればメールなんかで事足りる。そのおかげか私たちの間に電話というツールの必要性などは皆無に近かった。


「何か電話越しのお前の声っていつもよりちょい落ち着いて聞こえるな。」
「何?ドキドキしちゃった?」
「ははっ。……ちょっとしちゃった。」
「まじかぁ。……でも、うん。二口もいつもと声違うよ。」
「お、ドキドキしてもいいんだぞ?」
「ばーか。」


眠気に微睡む頭に届くいつもより少し低い軽口はなんだか心地良くて更に眠気を煽る。そんな中、ふと視界に入り込んだ時計の針がどちらも天井を指していることに気が付いた。


「二口、もう十二時だよ。」
「え?……あ、本当だ。全然用件話してないな。」
「本当だよ、何の用?」
「メールの話だよ。」


メールって何かしてたっけ?なんて眠たくて動きの鈍い脳みそがぎこちなく回って記憶を辿る。


「あー……あのふざけたヤツだ。」


飾り気のない、だけどこれ以上なく浮ついた一文が脳内でくるくると踊る。


「ふざけたって……一応本気で言ってんだけど?」
「そうなんだ?」
「そー。一応付き合ってるってことになってんだし、デートの一回くらいはしとかなきゃなーって。」


話のネタにもなるし?と二口は笑う。
そういうのが面倒だから付き合おうって話になったんじゃなかったっけ?とは思ったけど、何というか意外にも真面目でマメな彼らしいかとも思って言葉を飲み込んだ。


「次の土曜とかちょうど部活も休みじゃん?一緒にどっか行こうぜ。」
「折角の休みなんだから身体休めなよ。」
「別に試合の後とかじゃないんだし、ただの気分転換だって。……嫌か?」
「嫌、とかではないけど。」
「じゃあ、決定な。時間とか場所はまた考えようぜ。」


おやすみ。と一言あって電話が切られる。突然電話してきて突然切って、自由人かよ。ツーツーと鳴く携帯に一言悪態を吐いて時計を見遣ると普段ならもうとっくに寝ている時間。
明日寝坊したら二口のせいだ。それだけ打ち込んで送り付けてやった。


機械仕掛けの君の声、私の声。
(翌朝鳴り響いた可愛げの無い着信音。)


ーーー
てことで次回からしばらくデート編。

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