長編

□その愛は走り出した。
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出会いは三年前、北川第一中の体育館だ。
私は今と同じく男子バレー部のマネージャーとして入部希望者の名簿を作成しつつ新入部員の観察を行っていたときだ。
一年の中でも特に高い身長を持っている者、ずば抜けたセンスを有する者、上級生の動きを食わんとばかりに静かに見つめる者、数人の人間が目に止まった。
その中の一人が金田一だった。とは言っても別に最初から今の様に可愛がっていたわけではない。正直何だあの面白頭、どこまでが身長?なんてことを考えていた。
それよりかは及川に毛嫌いされてはいたが来年以降、確実にチーム軸となるであろう才能の塊であった影山や、覇気を見せることはなくてもすごい勢いで上級生の技を吸収していく国見の方を可愛がっていたと思う。あの二人は見目も良くて目を引いたし。
そんな調子だった私の心が動いたのは新入部員たちから見た最初の山場、ゴールデンウィークの話だ。

ゴールデンウィークといえば当たり前のように合宿が行われるのだが、私はこの合宿が一番嫌いだった…やっぱというか今でも嫌いだ。
もう既に数名の脱落者もいたがそれでも部員の数はどの年もこの合宿が一番多いし、合宿中の仕事量は普段と比べ物にならない。
それだというのにマネージャーは今も昔も私一人だし、数だけは多い一年たちは練習に着いていくのがやっとで私の手伝いなんて考えもしないのだ。


「あの!」


普段の部活のサポートはもう慣れたものだと手伝わせなかったことが問題だったのかもしれない、そうは思えど邪魔だと思ってしまう気持ちには勝てなかったのだ。


「その荷物、俺運びます!」


そんな中、右に左にと走り回る私を捕まえたのが金田一だった。


「……え?」
「あ、いや……他の仕事の方がいいですか?何でも言ってください!」


貴重な休憩時間、他の一年は大半が床に這いつくばっているような中で、金田一は一人、肩で息をしながらも真っ直ぐな瞳で私の手伝いを自ら申し出た。


「あ、えっと……それじゃそっちの持って着いてきて。」
「はい!」


そんな金田一を見て何人かの一年が立ち上がったのを見たけれどぞろぞろと一年を引き連れて歩く気などなかったのでそいつらは及川か岩泉がどうにかするだろうと体育館を出た。

三年生の横を歩くというのはやはり緊張するのか金田一はきゅっと唇を引き結んで黙って着いてくる。それが何だかこそばゆくて面白くって、小さく笑い声をこぼすと金田一はその大きな身体をびくりと揺らす。


「ど、どうかしましたか?」
「いや、そんなに緊張しなくてもいいのになって。」


そんな私って怖い?なんて笑いながら付け足すと金田一はふるふると首を振る。


「緊張、しますよ。先輩、優しいけど手伝いとかはいらないって顔してることが多いですから。」
「……そんな露骨に顔に出てた?」
「え、あの……顔っていうか、何と言うか普段の練習の休憩中とかには手伝えることないように見えるというか。」


だから何もできなくてスミマセン。と小さく謝った金田一に何と言うか面食らったのがこの時だった。
県内有数の強豪と名高いこの北川第一の練習メニューはこの四月の基礎練習ですらかなりきつい。その中でも彼はその生まれ持った長身と素直な性格から監督はもちろん、及川や岩泉たちレギュラーの面々にも気に入られ、その練習量は一年の中では群を抜いて多いというのに、そこ最中でも私の仕事のことを意識下に置いていたというのか。そりゃ岩泉も可愛がるわ、と一人納得した。


「いやいや、謝んなくていいよ。これは私の仕事だしね。むしろありがとう。」
「え、いや……はい。」
「てことで、手伝ってくれて助かった。それ、ここに置いといて。」
「はい。あの、これからは何かあったら呼んでください!俺、何でもやりますから!」


にかりと明るく笑った金田一を今でもよく覚えている。
だってこの時初めてこの不思議頭の後輩のことを心底可愛いと思ったのだから。
今、この高校生現在より幾分か低く自分の近くにあった頭をガシガシと撫でてやるとすこし顔を赤くしてはにかんだのを見て更に金田一は可愛いという気持ちが膨らんだ。


その愛は走り出した。
(止まることを知らないそれは今でもこの胸にある。)

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