長編

□03
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「青根ー、かまえー!」


すこし離れたところに見えた周囲と比べて頭一つ高く大きな背中に飛びついた。
ボスッとぶつかるように飛びついたというのに一切ふらつくことのない背中に流石鉄壁!と言いながら手を離して地に降りるとゆっくりとその背が振り返る。


「……。」


どうかした?と小さく首を傾げた青根にもう一度「かまって!」と笑うと周りをきょろきょろと見回してから控えめに頷いた。


「二口は茂庭さんのところに行くって、聞きたいことがあるんだってさ。」


私の言葉で状況を理解したらしい青根はもう一度頷いてから近くに設置されているベンチを指差した。


「そうだね、あそこに座ろう。二口にもメールしとくね。」


ぶんっ、と勢いよく首を縦に振った青根の表情は心なしか明るい。無口で強面であることからなかなか他人と仲良くしているところを見かけないけれど青根はみんなが思うより人といることが好きだし、わかりやすい。


「……あの、」
「ん、どうしたの?」


言いたいことや聞きたいことがあればちゃんと言ってくれるし、逆に嘘や言わなくてもいいことはまったく言わない。
素直で純粋で真面目。私や二口とは正反対な人間だけど、だからこそ私も二口も青根のことが大好きだ。そして青根はその好意を受け止め、同じだけの好意を返してくれる。みんなにも知ってほしいけど誰にも教えたくない青根のいいところ。


「二口と、付き合い始めたって……。」
「あー、それね。うん、いろいろあって付き合うことになりました。」
「えっと……おめでとう。」
「ありがと。」


教室であれだけ派手に言いふらしていたのだから同じクラスの青根にそれが伝わらないわけもなく、きっといつか聞いてくるであろうと思っていたことだ、驚きはなかった。


「なんか青根の口から付き合うとか聞かれるのっておもしろいね。」


特別な悪意のない純粋な感想に青根は不思議そうな表情をして首をこてんと傾ける。


「あんまり、興味無さそうだから、そういうの。」


違ったらごめんね?と笑顔を向けると青根は「そういうことか!」て納得を顔に浮かべてからふるふると首を振った。


「二口と、みょうじさん……だったから。」
「私たち、だから?」
「二人が、付き合うって聞いたとき……俺も嬉しかったから。」


ほんのすこし照れたように笑う青根の言葉に胸のうちからふつふつと喜びが込み上げてくる。
こんなその場しのぎでニセモノの関係だけれどそれを本気で祝してくれる人がいるんだ、と思ったら留まることのない喜びに任せて隣に座る大きな身体に抱きついていた。


「ありがとう、青根。私、青根のこと大好きだ!」


なんて純粋で優しい心を持っているんだろう、この人は。なんてこの一年間で何度感じたかわからない青根の温かさを噛み締めていると「……あ。」と青根が一瞬たじろいだ。
一体どうしたのだろうと思った瞬間、パコンと軽い音と同時に頭に鈍い衝撃が走る。


「痛い!何!?」
「何!?じゃねぇよ、青根から離れろ。」
「二口、私の頭叩きすぎじゃない?」
「なまえが、叩かれるようなことしすぎなだけ。」


ぎゅう、と頬を抓られ青根に抱きついていた腕を解き離れる。わざとらしく私の名前を強調する二口に約束を思い出し仕方ないので小さくごめんと謝った。


「青根も嫌なら嫌って言っていいんだぞー?」


もちろん青根は嫌なことは嫌、ダメなことはダメ、と言えるということを知っての言葉。二口は珍しく何の含みもない素直な笑みを青根に向けている。


「……嫌、じゃない。」
「そうだよ、私は青根が好きで抱きついてんだから嫌なわけないじゃない!」
「お前の理屈はおかしい!青根がお前のこと好きじゃなかったら嫌がらせだぞ?」


これまたわざとらしい二口の言葉に青根はあわあわと焦り、表情を曇らせる。そしてわざと口を尖らせる私と笑顔の二口を見てからすぅ、と息を吸い込んだ。


「俺も、みょうじさんのこと好きだから、嫌じゃない!」


力強く言い切られた言葉に私はにっこりと青根に笑いかける。そう、青根はこういうひとなのだ。与えたら与えただけ……いや、それ以上を返してくれる。


「ははっ、知ってた。」


二口も私も、ずっと前からちゃんと知ってる。


「なんて言ったって俺たちは2-Aの仲良しバレー部トリオだもんな!」


明るく響く二口の声に青根は力強く頷いた。


君と私の大好きな人!
(人呼んでバレー部の問題児トリオ。)



ーーー
青根くんはどこまでもいい子だと思ってます。

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