長編

□02
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私と二口のオツキアイにはいくつかの約束事が作られている。


「なまえー、辞書貸して。」
「同じクラスなんだから貸せるわけないでしょ、堅治はバカなの?」


約束事その一、教室や部室などの他に人がいるところではお互いに名前を呼び合うこと。
逆にそれ以外のときにその制限はない。学校内ではいつ誰が聞いているかわからないから二人だけでも極力名前を呼ぶようにしようと思ってはいるけどメールなんかでは絶対に呼ばない。私のスマホくんは「堅治」を変換できない。


「えー、なまえのいじわる。」
「うるさい、黙れ。」
「仕方ないから小原のとこ行ってくる。」
「はーい、いってらっしゃい。」
「すぐ戻るから待っててハニー。」
「永遠に帰ってくるな、ダーリン。」


へらへらと笑いながら続々と爆弾を投下して消える二口を心の中で罵倒しながら、今の会話を遠巻きに聞いていたクラスメート数人が近付いてくるのを静かに待った。


「なぁ、二口とみょうじって付き合ってたの?」


かけられた声の方を向けば大体予想通りの人数が視界に入る。その数人の中に一人、以前告白を蹴った子もいた。
その子だけ周りと違う空気を纏っているのが丸分かりで正直、ちょっと笑えた。


「うん、この前付き合い始めました。」


約束事その二、関係はできるだけ全力でオープンに。目的は周囲への牽制なんだから言われるまでもないことだけどこれが多分一番大事なことだ。……とはいえ別に私たちのやり取りは大して変わったところはない。いつもの軽口の叩きあいにほんのすこし色をつければこんなに釣れるなんて、みんなどれだけ飢えてんのよ、単純だ。


「マジかよー、二人のどこがいいの?」
「その言い方ひどくない?……まぁ、何ていうかバレーやってるときみたいな真剣な顔で告白されたらきゅんとしちゃうよね……って、今の堅治には内緒ね?恥ずかしいから。」


そして約束事というかちょっとしたやった決め事一つ。私たちのオツキアイは二口の告白がきっかけで、それでも私もすごーく二口が好きだという設定で話を進めるということ。
この設定はなるべく二口のいないところで見せた方が真実味が増しそうなので今全力で押し出してみたが正直やってて辛い、キャラじゃないと自分でも思った。


「うわ、今のすっげー女子っぽかった!みょうじも女子だったのか!」


ないわー。と思っていた今の発言はなんかみんなのフィルターを通していい方に転がったぽいのでとりあえず乗っかることにしよう。


「失礼じゃない!?私どこからどう見ても女子じゃん!」
「いや、だってみょうじって俺らよりかっこいいときあるし、女子って言うより性別:みょうじみたいな認識だった。」
「何その認識。」
「いやー、でも女の子だったんだなぁ。」
「まぁ、その女の子ななまえはもう俺のものなんだよねー。」


私としてはそうやって私に女の子を求めないその認識、助かるなぁ。なんてことを内心で考えていた。
クラスでも部活でも完全に男の世界、みたいなこの学校で一年以上の時間を過ごせば自分でも性別なんてどうでもよくなっていく。そんな中でもしつこく女子を求めるそこの一人だけ笑えていない彼には今の二口の台詞効いただろうな。なんて真っ黒い笑いは上手に誤魔化して、戻ってくるや否や私の肩を抱く二口に視線をやった。


「早かったね。」
「廊下で小原に会った。」
「それでさらっと借りれたんだ?良かったじゃん。」


特にその身体を突き放すこともなく至近距離で会話を成立させてやれば見せつけんなとかリア充爆発とか軽い声が投げつけられる。とりあえず目的は達成できたんじゃないかと思う。


「つーか、何の話してたの?」
「堅治と付き合い始めましたって話。」
「えー、それでお前が女子だーって話になる?」
「なったんだから仕方ない。」
「……ふーん。まぁ、今回は信じてやろう。けど他の奴らの前であんまかわいい顔すんなよ?」


何ヤキモチ?と煽ってやれば何だよ、悪い?と拗ねた表情を作る二口はいい役者になれそうだ。
そしてまだ私をにじっとりとした視線を向ける一人に見せつけるように「だったら嬉しいなぁって。」とはにかんだ私も役者に向いているかもしれない、なんて。


君と私は似た者同士。
(どうしようもない性悪同士。)

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