長編

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「マジでありえねぇんだけど。」


それはそれは盛大なため息と共に吐き出された言葉に今日はソッチだったか、と小さく苦笑が溢れて落ちた。


「俺はどこからどう見ても男だろ!?身長は180越えてるし鎌先さんや青根と比べれば貧相だけど筋肉だってそこそこ付いてるガタイのいい男だろ!?」
「二口、ご飯は静かに食べようよ。」
「いや、ご飯とかって気分じゃないんだって!あのヤロー俺のことをカワイイとか言いやがった!フツー自分よりでかい男に使う言葉じゃねぇだろ……。」
「その件に関しては自分の生まれ持った顔を恨めばいいと思う。」
「何、何が悪いの!いや、性格悪いのは自覚あるけど!」
「悪くないのが問題なんでしょ、性格はさておき。」


心なしか青褪めながらも怒りの感情を隠そうとしない彼の顔はその性格の捻くれているという欠点を飲み込んでしまえる程には整っている。しかもその顔立ちは男臭さとは対極の中性的な美人だとでも言えるものだと私は思う。一年以上見ていてもその顔立ちは美人だなぁ、と変わらず思うのだ。


「くっそ、本気で意味がわからん。女の子からなら未だしも何で野郎からの告白なんて受けなきゃならん。しかも俺何も悪くないのに謝んなきゃいけねぇってのに更に腹立つ。」
「あー、それはわかるなぁー。何て言うか謝る理由が行方不明。」
「だよなー。当たり障りなく部活忙しいし〜とか、俺のせいじゃないんだよな!しかもそこでそれでもいいから〜とか言われても俺が良くねぇんだってなる。」
「あるねー。あと恋人いないなら付き合うくらいいいじゃんとか言う奴ね、顔面殴ってやろうかと思った。」


誰かに聞かれたら何の自慢だとか最低だとか言われても仕方ないような会話が教室でできるわけもなくいつからか「何かあったら昼は部室」という暗黙の了解までできる程に私たちの悩みはどうにも重大で根が深い。
はぁ……とため息が重なってその声の方を見遣れば同じようにこちらを見た二口と目が合った。


「いっそのこと彼女いるからとか嘘吐いて断るのも手か?」
「誰?って聞いてくる奴いるし、ちょっとでも動揺したら嘘がバレて面倒だよ。」
「マジか。」


二口の言葉に頷いて数ヵ月前の出来事を思い返す。その時の面倒さが表情に出たのか隣で二口はうげぇ、と変な声を出して顔を伏せた。


「俺はただ普通にバレーに打ち込みたいだけなんだけど。」
「意外と真面目だよね。」


ノリが軽くおちゃらけたイメージの強い二口だけど一歩コートに足を踏み入れればこれ以上ない程に真面目なバレー馬鹿だ。

「意外とって失礼だろ!」
「そうでもないでしょ。先輩たちには生意気言うし、見た目も普段の態度もチャラいし。テキトーに彼女作って別れてしながら部活もそこそこ楽しむ〜みたいな感じする。」
「お前、一年以上何見てたの?って話になるんだけど。」
「イメージの話だよ。私は二口がバレー大好きで頑張ってるのも、そのために彼女作らないのもちゃんと知ってる。」


自分のことは棚にあげて彼女くらい作ればいいのに、なんてことを言ったことがあった。だけど二口はそんな私の言葉に至極真面目な顔をして「ちゃんと相手もできないのにそんな失礼な真似できない」と言い切った。それを聞いたとき彼の持つ真面目な恋愛観に驚いたものだ。


「俺ってそんなチャラい?」
「真面目に見せる気ないくせに。」
「それは確かにあるけど。……って、じゃあ真面目に見せればいい?そしたらちょっとは変わる?」
「できもしないこと考えるのは時間の無駄だよ。」


くくっ、と喉を鳴らすように笑えばゴツンと頭に拳が振り落とされる。事実を述べたまでなのになんて酷い奴だ。


「あー、やっぱり彼女作れってこと?そしたら少なくとも男から言い寄られるのは無くなるか?」
「まぁ、断るのは楽になるんじゃん?」
「でもやっぱ相手してやる時間とかないよなー、と思うとなぁ。」
「部活優先というか部活至上主義だからね。」


平日の放課後はもちろん休日だって時間が許す限りの全てを体育館で過ごす私たちのような人間とリズムをそのままでお付き合い、なんて何の意味もない。それを思えばいい加減言い飽きた謝罪の言葉をまた繰り返すことになる。ちゃんと真面目に考えた結果の一番誠実な選択なのだからみんなさらっと受け止め納得してくれよ、というのはワガママなのかな。


「相手も同じならいいのかもな。」
「部活に青春捧げてる子は告白とかしてこないでしょ。」
「……ホントだ。しかもこの男所帯で部活に打ち込んでる女子とかいなくね?」
「女子部ないもんねー。いてもロボ研とか文化系か、マネージャーくらい?」
「お前とか?」
「そー。私は伊達工バレー部を一番近くで応援したくてここ入ったわけだし。」


そのくらいないとなー。と笑って答えると二口は元々丸い目を更に丸くして私を見つめた。


「……何?」
「そうだ、お前がいるじゃん!」
「は?何の話?」
「俺と付き合おーぜって話。」
「……はい?」


つい五分前まで荒みまくって死んだ魚のような瞳をしていたのがまるで嘘だったかのようにキラキラと輝く瞳をこちらに向けて二口は自分も私も聞き飽きた言葉を吐き出した。


「別に本気で彼氏彼女しようって話じゃなくてさ、付き合ってるってことにしたら良くね?ってことなんだけど。」
「……うん?」
「分かれよ、頭悪いな。」
「いや、分からなくないけど…おかしくない?」


さっきまでそんな話はどこにもなかったよね?しかも、付き合うけど彼氏彼女しなくていいとかなんか絶対おかしいよね?もう付き合うって何だったっけ?


「おかしくないって。俺らクラスでは青根を含めて仲良しバレー部トリオしてんじゃん。その中で付き合うとか付き合わないとか起きるのはフツーのことだろ。」
「……まぁ、それはそうなんだけど。」
「お互いに損はしないと思うけどな。もし本当に好きな奴ができたらやめたらいいだけで、それまではどちらの相手にも牽制になる。」
「確かに、そう……なんだけど。」


二口は本当にそれを良しとするのか?とじっと輝く丸い目を見つめてみたけどわかったことはただただ二口は美人だなってことだけだった。……あー、なんかもうさ、


「難しく考える必要とかなくね?」


そうだよな。二口の言う通りなのかもしれない。お互いの利害の一致で、言ってしまえば夏休みの課題を手分けするのと対して変わらない気がしてきた。


「じゃあ、それでいっか。」
「おう、これから改めてヨロシク。」


君と私の関係に、
(新しく恋人(仮)が追加されました。)



 

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