短編U

□寄り添う心音
1ページ/1ページ





風紀室に間違って届けられた備品を保健室へ渡しに行った先で生徒会副会長の上野 紗希斗(うえの さきと)がぐったりした様子で眠っていた。


「先生、彼どうしたんです」

「ああ、上野くん。うちに書類届けに来る時に真っ青な顔してたから休んで行きなって言ったんだけどね」

ちょっと心配かな、と続けた保健医は掛け布団を直してから備品の確認を続行した。

上野は生徒会の中でも普通に会話出来る。というのも昔からうちの生徒会と風紀会は折が合わない。
会議の時も書類の受け渡しの際にだって嫌味と文句と悪口のオンパレードだ。

俺としてはそんな子供みたいな事やってないで仕事して欲しいのだが。それを言ったところで生徒会の反感を買うだけだ。
しかし副会長である上野も同じ事を思っていると知ったのはつい先月だ。

「・・・、川崎(かわさき)、先に戻ってくれ」

「え、・・・あ、はい!」

一緒に備品を届けに来た委員に声を掛けた俺は上野の眠るベッドに腰掛けた。保健医は何かを察したようで委員と共に保健室を出ていった。



さらりと柔らかい髪を撫でて頬に触れれば俺が見ないうちにまた一人で頑張ったのだろう、少し痩せている気がする。
上野は前からそうだ。誰にも相談せずに一人で仕事を片付けてしまう事が多々ある。
見つけ次第注意するようにはしているのだが・・・。上野はそれを『放って置いても誰もやりませんから』と上野以外の役員の無能っぷりを隠すこと無く話したりする。


「ん、西條(さいじょう)・・・?」

「すまない、起こしたか」

「平気・・・。それよりどうかしたんですか」

「ん、お前が心配でな」

「僕は平気です・・・と言いたい所ですが今回は流石に疲れました。仕事内容は話せませんが僕の癒しになって下さい」

「ああ、良いだろう」


そう言って手を貸し出してやればそれを胸の中に抱き込む。必然的に俺も少し屈む格好になったが許容範囲内だろう。

トクトク、といつもよりゆったりな心音が手に伝わる。上野はまた眠そうに目を蕩けさせた。

「眠って構わない」

もう一方の手で額や瞼を優しく撫でてやれば返事をする暇もなく眠りについた上野。
少しでも休めれば、と目尻にキスを落として。





End
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ