短編U

□花色スケッチ
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この国では、絵を描ける者は優遇されるらしい。電子機器がない世界なので物事を絵にして記せる者は例え魔族だろうとその地位は貴族よりも高いらしい。

そんな話を世界に来た翌日にされた僕、如月 歩(きさらぎ ある)は神子のご友人としてひとまず身の安全は保証された。

これは所謂『異世界トリップ』というものではないのか。
季節外れの転入生として有名だった、朝峰 来希(あさみね らいき)君は僕の元同室者だ。
僕を連れ回す朝峰君に飽き飽きして美術室に篭っていたんだけど場所が知られてしまい、どうして自分と一緒に居ないんだ、と理不尽に怒られているところでこの世界にやって来てしまった。


「ん、風が心地良い」


部屋で騒ぐ朝峰君と神官さん達の目を盗んで中庭にやって来た。ふわりと気持ちの良い風が身体を包む。

どうやら朝峰君は『神子』らしい。
ボサボサのアフロだった髪は何故か綺麗な金髪になっていてアフロで見えなかった目はとても透き通った蒼眼だった。
本当は世界樹にどちらが神子なのか示してもらうのが習わしらしいのだが、僕に絵を描ける事の重要性を教えてくれた神官さんが

『どちらが神子かなど一目瞭然でしょう』

と言って朝峰君に決めてしまったのだ。とは言いつつも面倒なお役目じゃなくて安心しちゃったけど。



「わっ、綺麗なお花…なんて名前だろ……」

「フローリズア」

「……っ!?」

「済まない、驚かせてしまったか」


中庭の花壇に咲いていた小さな花の香りを嗅いでいれば後ろから聞こえた声。
驚いてすく、と立ち上がった僕は後ろを振り返る。


あ、何だか見覚えが……



「召喚の儀式以来だな、渡人様。
俺はドーレ国騎士団団長のファイ・ルーゼフ・ドンフォリス。ファイと呼んでくれ」


そうだ、僕と朝峰君が喚び出された部屋に居た人だ。神官さんに朝峰君が連れて行かれた後、どうすればいいか分からなかった僕を王様の元まで連れていってくれた人…。
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