短編U

□至福の日
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「あ、豊さん!」

「ごめん。少し遅れた」


休日。
俺は豊さんに誘われて映画を見に来ていた。これってデート……? いや、でも付き合ってるわけじゃないし…そもそも男同士だし…。

「澄?」

「え、や、何でもないです! 行きましょ!」

そんなイイ顔でこっち見ないでください…! しゅば、と豊さんから離れて歩き出した途端、


「澄!」

「ぅわ、」

「ほら、人にぶつかると危ないし手、繋いでよ」

俺が前を向いた途端にぶつかりそうになった人に目で謝った豊さんは自然に俺の手を掴む。
二人で待ち合わせて映画見る、いや、その前に映画館に行くまでに手を繋ぐ、はもう確定では……?


「ほら、澄行こう」

「はい、豊さん!」


というよりまず名前呼びに昇格できただけでも寧ろ奇跡では。
……なんて現実逃避しつつも俺は豊さんの手の感触を噛み締めていた。






────。



「はあ〜・・・、怖かった・・・」

「大丈夫? 澄」

「ちょっと怖かったですけど面白かったです…! でも今日はお風呂入れなさそうです…」

「ははっ、澄は可愛いなぁ」


豊さんはいつもこうだ。
男の俺に可愛いやら綺麗やら。
これは俺も言っていいのかと一度恰好いいと言ってみたら『今はダメ』と言われたりもしたんだけど。


「豊さん」

「ん?」

「あの、これ……」


初デートでもなく、豊さんの誕生日や記念日でもないから重いかと思ったんだけど、豊さんがトイレに行ってる間にこれを買った。

「豊さんが好きなデザインっぽくて…気になって買っちゃったんですよ…良かったら貰っ……て!?」

「何だこれ、嬉しい……」

がば、と抱き着いてきた彼は俺の耳元でつぶやく。喜んでくれてるみたいでよかった。


「あ、あー、あの豊さん? 見られて、る……んです、が」

そりゃあ男同士で抱き合ってたら見られますよね、でも何で見ているメンツがヤクザさんっぽい人達なんでしょう。


「……澄、家に帰るまでお出掛けだよね?」

「ふぇ? え、はい…遠足方式です」

「……だぁかぁらぁ、あっち行ってて?」


って野次馬に言った豊さんは俺の手を握って俺の買ったキーホルダーを受け取る。


「送ってく。それまでは俺とデート」

「で、ででででデート!?」

「ん? 違った?」

「違っ、違わないです!」

「ん、じゃあ行こ」


え、今日俺死ぬんじゃないか?
至福過ぎて、幸せ過ぎて

記憶消えそう……なんて。




End
 

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