短編U

□その瞳に奪われて
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ドタドタと廊下を走ってくる音に早坂 汐也(はやさか しおや)は目を覚ます。
長机の上に三角座りのまま顔を伏せて眠っていたので顔を上げる時にはポキリと首の骨が鳴った。

「あ、シオちゃん起きた? 風紀来るけど逃げる?」

「…………なんで?」

「ああー・・・、正当防衛とはいえ、暴れちゃったし」

早坂の自称親友の大本 千凜(おおもと せんり)はくい、と後ろを指差す。
教室には数人の男子生徒が横たわっており、壁や床には血が飛び散っている。
それを見たにも関わらず早坂はふぁあと欠伸をしてコテリと首を傾げた。


「鉄の匂いする〜……」

「…………シオちゃんはホント癒し系だね」


ガララッ


「風紀だ! 無駄な抵抗は止せ!」

「あっらら〜、随分遅い到着ね〜。
もう粗方終わっちゃったぜ」


空き教室に入ってきた数人の生徒は腕に紋章を付けており、一目で風紀だと分かる。

早坂はもう一度大きく欠伸をして伸びをした。


「またお前か、大本」

「違うってぇ! 今回は被害者! これ正当防衛だから!」

「過剰防衛だろう…、やり過ぎだ」

「ちぇ、委員長ンとこの親衛隊が強姦魔をバットで撲殺したら正当防衛だとか言ってた癖にぃ」

「殺してはないし、軽傷だ。バットではなく鞄だ。噂だろうが捻じ曲げ過ぎだな」


そんな言い合いをする大本と風紀委員長らしいその生徒を見る早坂は取り敢えず長机から降りた。

降りた音に気付いた委員長がそちらを見遣って目を見開いた。


「早坂 汐也か。…アイツも加担したのか?」

「だぁかぁら! 俺ら被害者だっつってんでしょうが! しかもこんな雑魚らの相手、シオちゃんがする訳ないし!」

「……まぁいいだろう。…そいつらを風紀室へ、お前らも授業に出るんだぞ」

「やっりぃ! やっぱ持つべきものは風紀委員長だよな!」

「調子の良い奴め……」







────────……



「センちゃん、」

「んー? なぁに、シオちゃん」


昼休み。
早坂と大本は屋上で昼食を食べていた。


「うーきいーんとー、あっおいーえ」

「シオちゃん、それ何語?」

早坂はメロンパンを飲み込むと同じ言葉を繰り返した。


「風紀委員長、かっこいーね」

「まぁね、抱かれたいランキングは会長を抜いて堂々の一位だかんね……って、シオちゃん!? まさか惚れたなんて言わないわよね!? お母さん心配よ!?」

「うちのお母さんもっと美人だよ」


のほほんと言う早坂に大本は気が気でない。こんな事なら被害者ではあるもののいつものように逃げていれば良かったかもしれない。

「…………ま、シオちゃんだしね」


会わなければすぐに忘れるだろうと大本は焼きそばパンに齧り付いた。
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