短編U
□それでいいから
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俺の名前は坂井 和湖。
私立の高校に通う、普通の高校生。
そして
「わんこ、おはよぉ」
そう言うのは俺より年上で頭もいいのにどこか抜けてて儚げな俺の恋人である、津神 真弦。
「だから、わんこじゃなくて和湖だっつの。起きたなら顔洗ってきてよ」
「はぁい」
わざとらしく手を挙げて洗面所に行く真弦。
真弦は雨に打たれ衰弱しているところを俺の父さんが拾ってきた。
傷だらけで物音に酷く怯えてた時期に俺は死んだ母さんが良く歌ってくれた歌を子守唄として聞かせてあげていた。
まぁそれで懐いちゃったわけだけど。
同性愛には驚くくらい寛大な家は付き合い始めたと告白しても赤飯まで炊いて喜んでくれた程だ。
「わんこー、歯磨き粉もう無いよぉ」
「真弦の使う分でおしまいー?」
「んー」
家族の愛すら知らない真弦に何が出来るだろうと考えたけど浮かばずに直接真弦に聞いてみると...
いつものようにへらへらとした笑みでこう言ったのだ
『子守唄がいい』
俺は今はそれでいいかな……なんて思っている。
End