短編U

□最高の日
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俺のバイト先には格好いい先輩がいる。

頼りになって俺と違って背が高くてイケメンで毎日女のお客さんにキャーキャー言われてる。


そんな先輩の名前は岩山 豊(いわやま とよ)
俺より四つ年上の21歳だ。



「お疲れ様でーす」



来たっ!!


「せ、先輩っ」



「キャー! 豊先輩お疲れ様でーす!」

「豊君、喉渇いてない?!」

「昨日言ってた店で予約取れたんだけど」

「豊くぅん、今度あのお店行かない?」





俺の声は女の先輩たちの声に見事かき消されてしまった。



「ごめん、今日は妹の誕生日だから」



先輩はそう言うとそそくさと帰って行った。




先輩に群がっていた女の方たちは後片付けもせずに帰る準備を始める。



「あ、あのっ」


「ってかダルいよねー後片付けとか。豊先輩居ないなら頑張るフリとかする意味なくねー?」

「どっかの誰かさんが女の子をもっと労わって俺がやりますーくらい言えたらいいんだけどねー」

「さっさと帰ってパーッと飲みにでも行こうよ。ねぇ、後片付け頼んだわよ。チクったら……生きれないようにしてやるから」



「あはは、こわーい」なんて言いながら言ってしまった先輩たち。
繁華街が近いこの店ではそういう人達が金稼ぎに来てることが多くて、先輩達もそんな感じだった。ヤクザさんとかと知り合いなんだろうなぁ。
別にいいよ。掃除とか慣れてなくて困るのはそっちだし。


でもここって広いから……。
たった一人で片付けて終わるのって深夜2時くらいになるんだよな……





ガチャ



「あれ、まだ開いてる」

「え・・・?」


この声、先輩?
嘘・・、だって妹さんの誕生日だって・・

そうして裏に入ってきた先輩は俺の姿を見て驚いていた。


設楽(したら)? まだ残ってるの?」

「え、えっと・・・」

「……これ、片付けてたの? こんな時間まで? 他の子は? 帰っちゃったの?」


私服姿の先輩は矢継ぎ早に質問してよいしょ、とダンボールを持ち上げた。
あ、とかう、とか言いながらまだ何も言えないでいる俺に先輩は笑った。


「ほら、二人でやれば早く済むよ。設楽はそっちの軽いの持ちな」

「あ、は、はい」



そうして作業を終えて時計を見ると深夜一時。やっぱり日付は越えるか。


「あの、先輩・・・」

「ん?」

「妹さんの誕生日なんじゃ・・」

「あぁ、抜けてきた。最初だけ顔出せば良かっただけだし…忘れ物あったんだよね」

「・・・そう、なんですか」


沈黙が降りる。
少し気まずいので、俺は鍵を手に取って先輩の方を向いた。瞬間だった


「ねぇ、いつもこうなの?」

「え・・・」

「言ってくれたら俺も手伝ったのに。今日はオーナー居ないけどいつもはどうしてるの?」

「えっと・・・」


オーナーも帰っちゃいますとは流石に言えな「いつもはどうしてるの?」

「一人で、やってます……」

「そう…、うん、分かった」

「先輩……?」

「設楽が先輩の頼り方も知らない子だとは思わないけどちょっと悲しいよ。こんな時間に…しかも繁華街の方でしょ、家。危ないよ、まだ高校生なんだし」

「うっ、ハイ……」

そうして先輩は忘れ物らしい携帯を持って俺の手から鍵を取る。

「じゃあ送ってくから荷物取っておいで」

「は、はい……!」


思いもよらぬお誘いに俺はちょっと嬉しくなって返事をした。



「設楽って呼ぶの飽きたから(すみ)って呼んでいい?」
「うぇっ!?」
「俺の事も先輩じゃなくて豊でいいから」


今日は最高かもしれない






End

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