短編U
□心臓のオト
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「センセー、今日は何もしないの?」
「あぁ、しなくていいんだよ」
患者の問いに僕は努めて冷静に答えた。その声の先にある暗闇を悟られないように。
「それは……」
患者は分かっている。
僕はダメだな。
「僕が今日死んじゃうから?」
あぁ……きっと恨んでいる。
憎んでいる。
もしそんなことがなくても僕は自分の力を一生悔いる。
「……何も答えないのはあってるから?」
まだ小さな命。
生まれてからの歳月はたった10年。
ごめんね。
助けたかった。
でも
本当にごめんなさい。
「センセー、」
「なんだい?」
「僕の命はここで死んじゃうけど誰かの命はまだ続くから…」
『頑張れ』
そう言った患者はもう二度と動かなかった
End