短編U

□傍観者
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僕は呑気に欠伸をして目の前の人物を見遣った。


「いつまで傍観者でいる気だ」

「はて? 何の事でしょうか」


(わざ)とらしくとぼけた僕にこの学園の生徒会長、白沼 隆守(しろぬま たかもり)は呆れたようにため息をついた、なんと失礼な。


「分かっているんだろう、この学園の状態が」

そう言った生徒会長に僕は2枚の紙を取り出す。そこに書いてある文面を読み始める。

「数週間前に来た季節外れの転校生に生徒会を含む美形集団が次々と堕とされていき、生徒会長以外の生徒会役員は何故か仕事放棄。転校生にくっついて授業すら出ていません。
かく言う転校生は同室者と美形基取り巻き達を連れ回し、学園の備品を壊し、親衛隊を煽り狂わせる。
嫉妬に狂った親衛隊は後ろ盾が大きく喧嘩の強い転校生に手が出せず、転校生が連れている同室者に制裁を始める。風紀が忙しくなる訳ですね。
その同室者が嫌がる意思表示を見せているにも関わらず転校生は同室者を親友と豪語し連れ回す。それに対し、取り巻き達は嫉妬し同室者を虐める。正に負の循環。
かく言う貴方、そう貴方。
“仕事のしない”副会長が言ってましたがセフレと不純同性交遊しているとか。しかも生徒会室に籠って。だから生徒会室で仕事が出来ないとか何とか。その辺の事実確認をしたいのですが」

一度紙から目を離し、会長を見れば「何を言ってるんだコイツは」という目で見られている。言ったのは僕じゃないですって。


「生徒会が仕事をしないで学園が機能すると思うか」


全くもって正論でございます。
この学園では教師より生徒の立ち位置の方が高い。生徒会長様なんて多分校長より役立ちます。

「いいえ、思いません。
ですから転校生にくっついて授業すら出ていない副会長の言葉を信じる輩なんて最早この学園には殆どいない訳ですが確認だけでも取りたかったんです。そんな顔しないで。
さて、貴方が先程言った「いつまで傍観者でいる気だ」という疑問に答えましょう。

もう傍観者は懲り懲りです」



そう言い終わった僕はピ、と機械を止めた。不思議そうな顔をする生徒会長に僕は手の中にある機械を見せた。


「実はこれ、知り合いに作ってもらったんですよ。なにか分かります?
盗聴器ですよ、盗聴器。
今、放送室の放送の電源入れてもらってるんですけど、意味分かります?」

「なるほど」


合点がいったとばかりに柔らかい表情になったベッドの上で起き上がる会長をそのまま寝かせてあげた。
全く無理をするからこうなるんです。

僕はまた呑気に大欠伸をして念の為に仮眠室の鍵を閉めた。


「会長、情報屋としての仕事…“理事長へ学園の現状を伝える”は完了しました」

「あぁ、御苦労。あと一つ依頼があるんだが」

「はて? 何の依頼でしょう?」

会長は目を閉じて僕の手を握った。


「学園の情報屋zone(ゾーン)の正体と…そいつ、の…入手方法、を……」




…………………………




「は!? え、いや、僕がzoneで、いや、そうじゃなくて! まさか寝ました!? いや、寝ないで、起きて! どういう意味ですか、ちょっと!」





End

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