短編U
□リミテッド
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目の前には死体の山があった。
どこを見渡しても赤色で青年――樒はクスクス笑うと
「弱い、ダメ」
か細い声でそう言った。
その声は酷くかすれていてでもどこか綺麗だった。
樒は今年結婚が許される歳になったばかり。
しかし樒はそんなことをまだ知らない。
ただ、彼の恋人――同性の刄より5歳ばかし下なのは理解していた。
樒はもう忘れかけているが7歳の頃から刄に世話になっている。拾われたのだ。
刄は死にかけのガキになど興味のきの字もなかったが樒の目玉の色が刄と似ていたので拾ってきてしまったのだ。
それからというもの、刄は樒を溺愛して愛情深く育てた。
ただ、ひとつ問題があった。
刄は裏で有名な殺し屋だったのだ。
しかし樒は驚くどころか刄と一緒にすると言って聞かなかったのだ。
あまりにも可愛く(刄にはそう見えた)ねだってくる愛息子に刄はとうとう折れた。
「刄に報告、早急に」
樒はそう呟くと殺し屋の巣である[beport]というバーに向かった。
カランコロン
小さな鈴の音に皆が意識をこちらに向けた。
同業者だと分かると店を包んだ殺気は何処へやら、バーらしくゆったりとした雰囲気があるだけだった。
「マスター、シャワー」
樒は仕事終わりに必ずシャワーを浴びるのだ。
これは親ばかの刄に強要されたこと。
まだ上手く仕事をこなせず返り血ばかりついてしまう樒に刄が顔を利かせて使えるようにしたのだ。
と言っても樒も一人前の殺し屋である。
シャワーを終え、着替えていると外で銃声がした。
バーで何かあったのだろうか。
パンパンパン!!!
続けざまに3発聞こえた。
罵声や怒声も微かに聞こえる。
樒はため息をつくとホールに戻っていった。