短編
□しょうがない、許可する
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「彩里様、朝でございます」
そんな声が夢の中に響く。
特別、憂鬱になるような事などないのに布団の中でため息を吐いた。
西条祠 彩里、このバカでかい屋敷に住む西条祠家の跡取り息子である俺は布団の中から右腕を出す。
「……おきる、から……めがねを」
寝起き特有の掠れた声を上げて傍らにいるであろう執事に命令した。
「……彩里様、眼鏡なら先日踏みつけてしまわれて修理中です」
「ああ────、そうだった…」
有能な執事、雨河 跳は優しく俺の布団を捲った。
「おはようございます、彩里様」
「あぁ、おはよう雨河」
眼鏡が無ければ見えない、というほど目が悪い訳では無いが遠くのものを見る時に困る。
他の執事とは違って学校内まで入ってこない雨河には今日くらい俺の目の代わりになってもらおう。
無駄に顔がいいから他の生徒に騒がれるのは間違いないだろうがな。
「雨河」
「はい、彩里様」
「今日はお前も俺と登校だ、いいな?」
「……はい、彩里様の命とあらば」
そう言って綺麗に礼をした雨河は「では、」と声を上げる。
「何だ」
「今日は彩里様と共に居られるという訳ですね」
「あぁ、そうだな」
「お食事を共に取る許可を」
そう言って未だベッドに寝転がる俺に雨河は跪く。
全くキザな奴だ。
「しょうがない、」
許可する、と言った俺に有り難き言葉、と普段笑みの一つも零さぬ有能な執事は微笑んだ。
End