短編

□隣人に拾われまして
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ガンっ

バシッ

ドゴ












鈍い音の響く部屋には二人の男。
1人は綾瀬 羅虎(あやせ りと)
身体中に青痣や切り傷などがある、痩せっぽちの男だ。

もう1人はその羅虎に殴る蹴るの暴行を容赦なく加えている自称羅虎の彼氏である。

羅虎は声も上げずにその暴行に耐えていた。
痛い痛い痛いやめてやめて苦しい。

呻き声すら上げなくなった。
そんな羅虎の反応が面白くないのか男はもっと拳を振り上げる。
















ザーーーーッ


雨が降っている。
羅虎の傷だらけの肌に打ちつけられる強い雨粒。
羅虎はあの男に外に放り出されたのだ。

その時、羅虎は初めて声を発した。
昨日と同じ言葉を紡いだ


「おなか、すいた…」



もう立ち上がる気力すら無かった。
そこに黒い傘を差した男が家の前を通る。


羅虎はその男にこう言った。


「そこのひと……」


その声が聞こえたのか男は顔を上げる。
そして羅虎の方を見て驚いた顔をした。それもほんの一瞬。
男はすぐに駆け寄り、羅虎の上に傘を差す。









「たべものを、……もらえませんか…?」









そんな羅虎の言葉に男は胸が締め付けられた。
ガリガリに痩せた身体。そこには無数の痣と傷。
何日寝てないのだろう、目の下には濃い隈。
この蒸し暑い中で冷えた身体。吐く息すらか細かった。






男は傘を捨てると羅虎を抱き、帰路を急いだ。
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