短編

□端山家のオヒメサマ
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とある学校の5限目の様子はどこの学校とも変わらず眠気に耐える生徒と耐えることの出来なかった生徒が半々ずつ窺える。

しかしどちらにも属せず黙々と板書しているのは前回の実力テストで学年3位の成績を残した端山 真姫(みずやま まき)、18歳だった。

真姫はここらでは有名だった。
細かく言うと有名なのは真姫の兄弟で彼らはこの街のアイドル的存在なのだ。


「では今日の授業はここまで」


教師が教室を出ていくと真姫はノートと教科書をカバンに入れて帰宅する準備を始めた。


「あれ、真姫もう帰んの」

「うん。今日父さんたちがイギリスから帰ってくるから」

「ふーん、迎えは?」

晴美(はるみ)と帰るから平気」



クラスメイトに見送られ教室を出ると職員室に寄り


「端山先生いますか」


と問いかけると奥の方から私服に着替えた端山 晴美――真姫の一番上の兄(28)がやってきた。


「みんなもう家にいるって」

「え、マジで!? やばいじゃん。晴美急いで」

真姫は晴美と職員室を出ると駐車場に向かい、水色の車に乗った。

「久しぶりだな、父さんたちと会うの」

「うん。翔月(かける)は2回目か」

「実の親と会うのが2回目とか」


晴美がそう言えばクスリと真姫も笑った。
それが晴美にとってはとても可愛かった。





「「ただいま!」」


「「おかえりっ!」」

そんな二人を出迎えたのは2人の兄弟達。



「ふぐっ! ちょ、早葵(さき)苦しいよ!」

「真姫ちゃん、晴美に何もされてない? 大丈夫? 晴美、悪魔だから呪いとかかけられてない?!」

そう言って真姫に抱きつきながら彼の身体をベタベタ触っているのは次男の早葵(24)。
真姫溺愛である。


「何もされてない! 呪いなんて晴美がかけられるわけないだろ」

そんな早葵を真姫はぺっと振り払うと一番の癒し、四男の功祐(こうすけ)、15歳に抱きついた。

「おかえり。真姫にぃ」

「ただいま〜功祐、今日も疲れたよー」


そんな姿に真姫以外の兄弟が悶えているなんぞ彼は知らない。


「あれ、翔月は?」


真姫は五男、翔月(13)の姿がないことに気が付いた。


「翔月なら買い出し。今日は父さん達の好きなシチューだってさ」


「ほんとに!? やったあ!」


「真姫ちゃんもシチュー好きだもんね。僕はそんな真姫ちゃんが好きだよ?」


「俺はシチューも早葵も好きだよ?」


「ぐはっ――!!」


「うわぁ! 早葵、大丈夫?!」



早葵、鼻血による出血多量で死亡




「真姫、早葵はほっとけ。もう手遅れだ」


「いろんな意味でな」


ふと別の声が響く。


買い物袋をぶら下げた翔月が入口に突っ立っていた。

「真姫、おかえり。って逆か? ただいま。晴美、野菜切るの手伝って」

「翔月、ただいま! そんでおかえり。俺もやろーか?」

「ん、さんきゅっ」


功祐と晴美はそんな二人をソファに座って鑑賞中。
早葵は鼻血を度々吹きながら真姫を応援(?)していた。
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