短編

□何も言わないでも
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桐紫江 亮河(きりしえ りょうが)には毎日の日課がある。

心を閉ざしてしまった幼馴染みの河口 浩哉(かわぐち ひろや)に彼なりの世間話をしてあげること。





「昨日さぁー、ちょっと可愛い子見つけたから口説いてやったらお金くれるんならやるけど? だって〜 うざかったわ〜」



「…………………………」



「でさぁ、あげるよ? って冗談っぽく言ったらコロッと信じちゃってさ! で? やったらやったでお金は要らないからもう一回とかね? ほら来たよ俺のテクニック〜、浩哉もどうよ?」


「……………………」




彼らの間に会話というものはない。

ただ一方的に亮河が浩哉に話したいことを話しているだけ。

こんな事を続けているが未だに浩哉の心には少しの変化もない。




「あ、そういえばさ〜 うちの妹が彼氏出来たっつって舞い上がってたわ! ったくさ〜夕飯の時もずっとうるさいから怒鳴ってやったらお兄ちゃんも早く彼女作れば? だってよ」



「…………………………」


「あーあ、あの様子じゃあすぐ別れちまうな。俺は彼女なんて要らねぇけど。身体だけの関係が一番だな〜」


「……………………ぅ」



「ん? なんか言った? 浩哉」


「……………み……ぅ」




どうやら水が欲しいようだった。


「ほら、飲めっか? 水分補給は大事だよな〜」


亮河は浩哉の頭を撫でた。

心なしか浩哉は気持ち良さそうな顔をしている。


傍から見れば亮河が無理をしているように見えるが本人は至って普通。
浩哉の事で悩むこともなければ悪い意味で何かを言われることもない。


これが亮河の幸せなのだ。




「あ、昨日さぁ兄貴が────」









今日も1日が過ぎていく・・・。



End

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