短編 壱

□にゃんこ審神者主
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薬研藤四郎と秋田藤四郎



「にゃん」

その日、白猫審神者は粟田口部屋を覗いていた。まだまだ刀数は多い方ではないため、一番大きな部屋だがそこで生活しているのは三振だけであった。
乱藤四郎はどうやら歌仙兼定と厨に籠っているらしい。


「よぉ、大将。珍しいな、何か用か?」


短刀らしからぬ低音声を発するのは薬研藤四郎。あの織田信長の懐刀でもあった彼はこの審神者の初鍛刀である。


「にゃー」

「そうか、暇だったから来たと。
そういや、長谷部の旦那が大将を探してたぞ」

「……………………」

「素直なこった。まぁ暫くは匿えるぜ、なぁ? 兄弟」

そう言って振り返った先に居たのは内番服を着た秋田藤四郎だった。
薬研と審神者の会話に苦笑いしながら近付いてきた秋田はひょい、と審神者を抱き上げた。


「今日もいい天気でしたから主君の毛はふわふわですね!」

そう言ってもふもふと審神者の身体に顔を埋めた秋田に白猫も力が抜ける。
広い畳の部屋で秋田と寝転がると審神者の喉がぐるぐると鳴る。

薬研に聞けば乱が昼餉の支度をしに行ったのが少し前だったからご飯はまだ先だろうとの事だ。

ならばこうしてごろごろと寝転がっていても何の問題も・・・

「大将、長谷部の旦那の足音だ」


白猫はシュバ、と秋田の腕から抜け出して少し間の開いた押し入れの奥へと滑り込んだ。
「逃げ足は本丸一だな」とどこか呆れ口調の薬研に文句を言ってやりたいものの、審神者命のへし切り長谷部に声を聞かれてしまっては隠れた意味が無い。
粟田口部屋の障子が開いて長谷部の声と薬研の声が聞こえる。

『大将か? また何処かでサボって寝てるんじゃないのか?』

『見ていないんだな?』

『あぁ。兄弟はどうだ?』

『僕も見ていませんよ』

『そうか、見つけたら知らせてくれ』





暫くひっそりしていれば押し入れの扉が開いて彼の桃色の髪が見えた。


「主君、長谷部さん行っちゃったみたいです。昼餉の時間までごろごろしましょう!」


そう言って秋田に抱っこされて押し入れから出た審神者は取り敢えず薬研に猫パンチを食らわせたのだった。




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