短編 壱
□呑気な情報屋主
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寝起きは要注意
「、ろ……ナナシ」
〈ん…、シュウ……?〉
ナナシの紫がかった目が見えると彼を起こした張本人は「朝ご飯出来てるぞ」と目元を軽く撫でてやる。
〈…………あと、もう少し〉
目元を撫でる手に擦り寄りながら異国の言葉でそう答える彼に赤井秀一はまたか、という顔をしてベッドへ腰を下ろした。
〈可愛くお強請りされては断りづらいが今日はお前も仕事だろう?〉
随分と流暢なそれにナナシは目をパチパチと瞬かせる。
ふぅ、と溜息を吐いてから彼は起き上がった。
〈おはよう、シュウ〉
「おはよう、ナナシ。
また英語に戻っているぞ」
「……あ…。にほんご、むずかしいから…」
そう言って彼はスマホを取り出してメールBOXを見る。沢山あるメールの中でナナシは英文で書かれたメールだけを読み開ける。
〈……何だ、この前のは早とちりか〉
またしても故郷の言葉に戻った彼に赤井は肩を竦めてキッチンに戻っていく。
〈……情報屋も楽じゃない〉
そう言ってスマホを仕舞った彼はベッドを降りてキッチンに向かう。ふんわりとパンの匂いが鼻をくすぐる。
今日も一日、頑張ろうと思えるのは赤井の作るご飯のお陰である。
〈おはよう、シュウ〉
2度目の挨拶を言ったナナシに赤井は少しだけ間をあけてこう言った
「“おはよう、ナナシ”」
「あっ……」
寝起きは気が緩んでいるので要注意である。
終