短編 壱

□天才船医主
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鈍感だとは心外だ



ナナシはその日、オヤジであるエドワード・ニューゲートの部屋にいた。病を患う彼の往診なのだ。


「また酒をがぶ飲みしたな」

「酒があったら飲みてェだろ」

「はあ、今後は控えろよ」


自分以上に言っても聞かない大男にナナシは溜息を吐く。
そうして器具を片付けて一緒に往診に来ていたナースにそれを渡した。

「ナナシ」

「んぁ?」

「付き合え」

そう言って酒樽を持ったオヤジにナナシの怒号が響いた。






────……



「駄目だっつってる傍から飲もうとするから目が離せない」

「オヤジに酒やめろって言ってもねい」

数ヶ月ぶりにやってきた食堂は人も疎らでコック長であるサッチすら居ない。
書類仕事の休憩におやつを摘みに来たマルコと鉢合わせて先程の怒号は何だと聞かれて愚痴を零していたのだ。


「……腕の良い医者が居て良かったと思えって言っといた」

「自分で言うかよい」

マルコが呆れて言った時、食堂のドアが開いてナナシを1番怒る奴が入ってきたところだった。


「あーーー! ナナシー!」

「うわ、サッチか」

「うわってなんだ、うわって。
お前こないだのオヤジの誕生日ん時、出てこなかったろ! あんだけ来いってエースに頼んだってのに」

「あー、それだそれ」

「あん?」

怒られてもケロッとしているナナシにわざとらしく凄むサッチ。マルコはもう興味が無いのかまたワノ国の名物だというチャガシを摘んでいる。


「何で末っ子に頼む? 忙しいお前が来れないのは分かるけどイゾウやハルタでもいいじゃないか」


その言葉に興味の失せていたであろうマルコも振り返った。サッチも凄むのを忘れてかキョトンとしている。

それどころか食堂に居た数人もこちらを不思議そうに見つめている。


「何だ、何がおかしい?」

「いや、……ナナシ、そろそろ気付け?」

「あ?」


訳が分からないという顔をすれば随分と大きくて失礼な溜息が聞こえた。

何なんだ、一体とナナシは独りごちた。





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