短編 壱

□天才船医主
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薬だけが嘘をつかない




コポコポと試験管に入っている青紫色の液体が沸騰している。
その試験管をカチャリと手袋をはめた手が持ち上げて軽く揺らす。


「…………5分、」


そう呟いた手の主は試験管を試験管立てに戻すと書類に塗れた机から羽根ペンを探し出すとさらりと書類の一部に何かを書き足した。


「この薬品の純度をあげるには……そうだな、ジャックあたりに意見を聞くか」


掠れた声の主はそう言ったにも関わらず薄暗い部屋を出ようとせず試験管をじっと眺める。
その時間が少し続くとカチャ、と扉が開いた。


「用がないなら来るなと言ったはずだぞ」


扉の方を見ようともせず、きっかり五分経った試験管にまた薬品を混ぜていく彼に来訪者――エースは、はぁとため息をつく。


「また一日中籠って。
サッチが飯の準備出来たってよ」

「そうか」

「……っだからそうじゃなくて!」

「後で行く」

「っ!」


相変わらず顔を合わせてもくれない彼に不満を持ちながらもエースは『そうかよ』と呟いて部屋を後にした。

エースが部屋を出ていった後、その部屋の主――ナナシは少しだけ息を吐いてこう呟く。




「また、嘘が出た」


結局ナナシはその日、その部屋から出ることは無かったが、彼の助手であり、その船の表向きの船医の話によれば少し前からやっていた実験は成功したらしい。







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