短編 壱

□トリップ用務員主
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非力過ぎの為






「よいしょ、っと」



本を抱えて立ち上がると少し行儀が悪いが足で扉を開けた。

この世界に来てもう2ヶ月だ。
雨の中、衰弱して倒れている所を忍術学園の教員に助けてもらった。行く所が無いのだと言えば学園長は此処で住み込みで働けばいいと言ってくださった。

当たり前ながら平和な日本から来た僕は忍術なんて出来やしない。何かを教えるのも苦手だったから小松田さんという方にお仕事を貰って本の整理や資料の片付けをしている。

僕の事はあまり知られてないみたいでこの間、廊下でばったり会った5年の生徒に侵入者扱いされた。
たまたま通りかかった土井先生が居なければ多分僕はここに居ない。10も下の相手に本気で殺されそうになった僕は軽く人間不信になりつつある。



――バサバサッ!


「…あ」


考え事をしていると抱えていた本を落としてしまった。
何気に重いそれをまた抱えるのかと溜息をついた。




「大丈夫ですか?」



声を掛けてきたのは6年の生徒。
長く伸ばされた髪はとても綺麗。その顔は人形のように繊細で思わず手を止めてしまった。




「え、あ……大丈夫です。邪魔ですよね、すぐ片付けますから」



年下の相手に敬語なのは僕が彼らよりもずっと弱いから。こんな場所で明らかに事務員だと分かる僕を攻撃しないのはわかっているけれどやはり怖いものは怖い。
出来るだけ彼等を刺激しないようにしていた。



「手伝いますよ、……これは」


「あ、図書室に追加する本です。忍術のものから物語のものまで全部でえーと、20冊ですね」


「……図書室までですね、運びますよ」


「あ、いえ!そんな、悪いですから。それにこれは僕のお仕事です。えーと、キミは」


「仙蔵です」


「え?」


「六年い組、立花仙蔵と言います。事務員さんは?」



「……ナナシ、です」




「ではナナシさん行きましょうか」と僕の持っていた本の半分を持ち、先を行く仙蔵、君の髪がゆらゆらと揺れる。
慌ててそれを追いかければ仙蔵君は歩みを緩めてくれた。結局持たせてしまってる……!



「あ、あああの仙蔵君!」

「何です?」



「あ、いえ。図書室までオネガイシマス」


やっぱり言えなかった。
図書室に着いた後、図書委員の6年の子と話す仙蔵君は何だか少し機嫌が良さそうだった気がする。




End
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