短編 壱

□クラスメイト主
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名前の無い教科書




「つ、月島…」


「何?」


「これ、ノート返却…」


「有難う」





月島はきっと俺の事が嫌いだ。
俺が話し掛ける前に必ずヘッドフォンをするし、山口と話してる時に話しかけると必ず嫌な顔をする。

多分きっと俺のことが嫌いなんだ。




だから。




「……っ、」


「ちょ、ナナシ君、凄い血出てる!」


ボタボタと溢れる鮮血。
くらくらと揺れる頭。

どうやらお遊びでカッターを振り回してた男子のそれが通りかかった俺の額に当たったらしい。

男子は顔を真っ青にして先生を呼びに行ったし周りは俺の心配する声で溢れて頭が痛い。


「声掛ける余裕あるなら吐血でも何でもしなよ」


その時に響いたのが月島蛍の声だった。

既に視界がぼやけて意識が朦朧としていた俺は知らないが後で聞いた話だと、野次馬の状態になっていたそこに無理やり入っていって鞄に入っていたタオルをハサミで破いて俺の患部に巻き付けたらしい。
あまりの手際の良さに周りも唖然だったが血を流しすぎた俺がフラリと倒れたことにより、これは野次馬なんてしている場合ではないと今更気付いた彼等が一気に騒ぎ立てたらしい

月島はそれにも我関せずで俺を抱き上げると自分の制服が血だらけになるのも厭わず、保健室に歩いていったらしい。



とまぁここまでが月島の親友とされる山口から昨日聞いた話だった。
俺に傷をつけた男子と一緒に“遊んで”いたらしい男子達は停学処分となった。
俺はと言うと案外傷が深くて何針も縫った。
男子の親から謝罪を受けたが今の俺にはそんなのどうでも良かった。


俺は月島に嫌われてると思っていたんだ。
そりゃああの状況で嫌ってても根は優しい月島は助けるかもしれないがそれでも嬉しかった。



「…ナナシ、ちょっと母さん先生と話してくるわね」


病院のベッドで横になる俺に母さんがそう言って立ち上がる。仕事を放り出して来てくれた母は俺の傷を見て泣きながら無事で良かったと笑った。

もう少し位置がずれていたら失明していたかもしれないと言われたのを思い出して漸く自分がかなりひどい怪我をしたのだと気付いた。


――退院したら一番に月島に礼を言わなきゃ。


静かに使命に燃える俺はまだ気付かない。
ベッドの横にあるテレビ台に月島と書かれたジャージが置いてあることに。



End
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