短編V
□天邪鬼なお守り
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「卯詰、これ」
そう言って恥ずかしそうに僕の恋人が差し出したのは可愛らしい巾着袋。確かに作ってきて、とは頼んだけどこんなに可愛い仕様にしなくても・・・。
「これ、しか・・・柄がなくてよ・・・!」
指には絆創膏の数々。
お母さんに頼まずにちゃんと自分でやってくれたんだね。
僕は微笑んでそれを受け取った。
「うん、有難う。嬉しいよ」
「……、ちゃんと」
「ん?」
「ちゃんと帰って来いよ」
いつもならそんな事言ってくれないじゃない。誰かに聞いたのかな、今回はいつもの戦場じゃないって。それとも僕が“お守り”を作ってなんて言ったからかな。
「うん、生きて帰ってきて・・・君の胸に飛び込める元気も残しておくね!」
「ばっ・・・! そういうのはいいっ!」
ありゃ残念。
天邪鬼な恋人にはここまでらしい。
僕はまたね、と言って軍寮に戻ろうと、
ぐい、
「柄澤?」
「………………」
「おーい、柄澤 郁夫くーん?」
僕の服の裾を遠慮がちに摘んだまま言葉を発さない彼に僕は振り返ってぎゅ、と抱きしめた。
「・・・っ!」
「大丈夫。絶対ココに帰ってくるから。だからそれまで信じて待っててよ」
「…………、うん」
涙混じりに頷いた恋人は門限ギリギリまで僕を拘束していたのだった。いやあ、本当に珍しい。
End