短編V
□気に食わない奴を追い出す方法
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「羽冷 郁巳。帰れ」
僕の言葉に仮面を付けた男はハハ、と笑いを零す。何がおかしいんだ、全く。
ほんの数日前、路地で蹲っていたコイツに思わず言ってしまった言葉がある。それは僕が物心ついた頃から見えたり、聞こえたりするもの達を鬱陶しさから追い払う為に身につけた言葉で。それを聞いたコイツは何故か僕に懐いた。
「外に出たらまた襲ってきそうだし」
どうやらそれらに好かれるらしいコイツはあれからというもの僕に勝手についてきては不法侵入して僕の家から出ていかない。
「なら僕みたいに抗う術を身につけろ、お前を養う財力は無い」
「ヒモになろうなんて言ってないだろ?」
「働く気力があるなら出ていけ」
「折角出逢えた縁じゃないか」
会話がまるで成り立っていない。
僕はため息を吐くと取り敢えず身支度をする。これから頼まれ事を片付けに行くのだ。
僕の行動に気付いたソイツは立ち上がって着いて行っていいかを聞いてきた。
「……大人しくしていろよ」
「もっちろん」
────────・・・。
「あらあ〜、詰吉君ったらイイ男連れてるじゃな〜い、お名前は?」
「羽冷でーす」
「あらあら、イイ声もしてるじゃない♡ 詰吉君に虐められてなあい? 何かあったら私の所に」
「香廉さん、邪魔しないでくれ。これから仕事なんだ」
「全くぅ、せっかちな男は嫌われるわよぉ、詰吉君。
それじゃあ羽冷君も元気でねえ、気を付けるのよ〜、ふふ♡」
相変わらずのテンションだった香廉さんも仕事があるのかそう絡まれずに去っていった。
この辺は僕みたいな者やコイツを襲ってたヤツらが多い。香廉さんもあんなナリだが、僕よりも実力派だ。
「ねえ、仕事ってどんなの?」
「近寄るな、暑い」
「オレを助けた神矢君はとっても格好良かったからまた見れたら嬉しいよ」
「・・・・・・・・・・・・」
だから、
だから今だけはコイツを守ってやらなくちゃならない。とても不本意だが。
出て行かせるにはアイツらに抗う術も教え込まなければ。だからこれは見本だ。
要領はいいみたいだし、見せておいて損は無いだろう。
決して、褒められたから傍に置くのではない、決して違う。
だからそのニヤニヤした顔をやめろ!
End