短編V
□甘味に紛れて
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ボクの目の前でもっさもっさとパンを食らうのは隣町の高校に通う二年、敬山 陽。アンタ、それで六個目なんだけど…あ、まだまだいけますかさいですか。
「由助くん、お腹空きました」
「いや、今食ってんじゃん」
「これが無くなったら無くなります」
「……はあ、」
秀才で運動神経も良くて、オマケに顔がいいから女子にモテまくり。……の割に彼女はいた事がないらしい。絶対嘘だ。だがそもそもこの人に彼女という概念があるのかすら疑問だ。
「由助くん、これからデートしましょ」
「……どこに」
「駅前に美味しいケーキ屋さんが出来たんです」
「(また甘いもんに釣られて…)……それはいいけどボク、お金無いよ」
そう言えば目の前の甘党野郎はむふふと笑う。片手のメロンパン(冒頭の六個目は既に胃の中)はさっき開封したくせにもう半分もない。
「年下の恋人に払わせるほどケチじゃないですよ。由助くんは何が食べたいですか、私のオススメはですね、杏仁豆腐プリンですよ。別売りで黒蜜が売っててですね────・・・」
年上のくせに敬語を使って、随分と甘党でそれ以外の事は特に何も考えてない能天気な恋人は八個目のパンを開封したのだった。
End