短編V
□見つめた目が交わって
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放課後の教室。
俺は帰り支度をしながら窓の外を見遣る。グラウンドでは野球部と陸上部が試合前の練習をしていて端の方では園芸部が肥料を運んでいた。
部活動は強制ではない。
勉強優先したい者、部活に励みたい者、そもそも学校にも来ない者。
進学校と自称している割には案外自由度の高い学校だと思う。
「音原? まだ残ってるの?」
「委員長」
クラス委員長の来洲 輝一が鍵を持って立っていた。聞けば図書室で本を読んできた帰りだと言う。事務室に呼ばれた司書の代わりに鍵を職員室に返しに行くのだとか。
「まだ教室の電気付いてたから何でかなって覗いただけなんだけど、そっか音原が残ってたのか」
「俺ももうすぐ帰るよ、同室が腹空かせてると思うし」
「そうか。じゃあ早く帰ってやらないとな」
そう言って委員長はドア付近で待ってくれていた。どうやら途中まで一緒に行ってくれるらしい。
「こんな平凡と歩く趣味あったっけ?」
「何言ってんだ、クラスメイトだろ」
「そこは平凡を否定しろ……!」
「事実を覆してどうする」
はは、と笑った委員長に思わず目を奪われる。そんな俺に首を傾げた委員長だったが、やがて職員室の前で足を止めた。
「あ、そうだ音原」
「んぇ?」
「今日の晩飯、何だ?」
「今日はグラタンとコンソメスープ」
「ん、了解。すぐ帰るよ」
そう言った俺の同室者は失礼します、と礼儀正しく職員室に入っていった。
End