短編V
□当て馬の災難
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「委員長」
「何だー? 書類の不備か?」
僕、隙田 淳壱は悠々と委員長席に座る、天田 春舞風紀委員長に書類を差し出した。
「いいえ、不備ではありません」
「じゃあ何だ。それは生徒会へ届ける書類だろう、届けてきたらどうだ」
「これは来月行われる新入生歓迎会の父兄様方の詳細書類です。貴方が直々に生徒会室へ届けるというお話だったのでは」
そこまで言えば風紀委員長はだんまりになる。……本当にこういう時だけ面倒臭い人だな、と心底思う。
「喧嘩ですか」
「違う」
「即答は肯定と取りますが」
「……違う」
僕と委員長の会話を聞き耳立てて書類整理をしていた委員達は揃ってドアを見た。
「天田風紀委員長」
入ってきたのは副会長の町多 華織先輩だ。
そしてこのだんまり風紀委員長の恋人、だったりする。
うちの学校は三年前に共学になったばかりで男子校特有…、いや、多分うちの学校だけだと思うが男同士の恋愛というものがまだ抜けてない。
生徒の八割が男子であるし、実際風紀にも生徒会にも女子生徒は一人もいない。
と、話は逸れたが、そんな恋人関係の二人は喧嘩をすると途端に面倒になる。
「どうかしたか、町多副会長」
「天田風紀委員長、新歓の書類を預かりに参りました」
まず、お互いを役職呼びになる。
「ああ、済まないな。隙田、渡してやれ」
「はい……」
「確かにお預かり致しました」
次に空気が悪い。
今回何が原因で喧嘩したかは知らないが喧嘩する度に委員や役員の胃が痛くなるのはそろそろ避けたい。
「町多先輩」
「何です、淳壱君」
「いや…、・・・何が原因です」
小声でそう問えば少し風紀委員長を睨んだ町多先輩はこれまた小声で教えてくれた。
「貴方を名前呼びしてるのが気に入らないそうです」
「は……、」
……。
え、僕が原因?
いやいや、委員長の心の狭さが原因では。絶対そうです、そうですな。
「町多先輩、書類を少し貸してください」
「え、えぇ」
「委員長」
「なん……だっ!?」
僕は書類の束で委員長を殴った。
「面倒臭ェからさっさと仲直りしやがれっっっ!!!!」
当て馬だけは勘弁である。
End