短編V

□cat catch crazy
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「何も痛いことなどされていませんか?」


「大丈夫です…」


俺と蓮爾さんの部屋に着くとベッドに降ろしてくれた。


「すいません、最近傍にいれなくて」

「……大丈夫、です」


こうやって愛おしそうに頭を撫でてくれるから俺は頑張れるんだよって思うんだけど。


「……最近、寝れてますか?」

「……っ、大丈夫です、」

「あまり無理はいけませんよ」

「はい……」


なぜあの日、蓮爾さんは俺を拾ってくれたのか。それは多分俺の永遠の謎だ。聞くのが怖い。気紛れなんて言われたら俺は立っていられなくなるんじゃないかって。


「少し、横になりましょう」

「蓮爾さん、スーツ……っ」

「構いません」

「俺が……っ、構います……!」


ピ、とリモコンを操作して電気を消した。そうして俺を抱き込むとふわふわのベッドに倒れ込んだ。


「音くんは暖かいですね」

「蓮爾さん……」

「どうしました、音くん」

「…………呼んだ、だけです」

「そうですか」


トクン、トクンと静かに聞こえる心音に俺の瞼は落ちてくる。蓮爾さんが優しく背中を撫でてくれるからその振動すら心地よくて。


「良い夢を、音くん」














(ろう)、お願い事があるのですが」

「何なりと」

「私が仕事で留守の間、音くんをお願いします。私が家を出て帰ってくるまで音くんの心が平穏であるように心掛けなさい」

「承知致しました」















龍は傍らの少年を見遣る。
首領から命を受けて少年の護衛を務めて一週間。
彼が気に入らないと追いかけ回す末端共は音の周りで龍の影が彷徨くようになったのに気付いて近寄って来なくなった。

最初は首領の気紛れかとも思った少年の存在。どうやら昔馴染みの部下に護衛を頼むほどには大切にしているらしいと分かった。


「……音さん、紅茶入れるので少し休憩しましょうか」

「あ、はい…有難うございます……」


それならばと。
その命に全力で応えるのが部下、というものである。
冷徹悪魔と呼ばれたあの男をどう変えてくれるのか、龍は楽しみで仕方なかった。





End
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