短編V
□cat catch crazy
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「もし世界に絶望しているなら私と来ませんか?」
某ビル屋上。
そんな事を口にした猫目の怪しい男は人畜無害な笑みを浮かべながらも今にも飛び降りそうだった俺を片手で支えていたのだった。
「飽きたからって捨てませんか?」
「えぇ、勿論。
その命が終わるその瞬間まで愛し尽くしてあげましょう」
状況が理解出来なくとも口をついて出た言葉に男は目を細めて笑う。
それが例え嘘だとしても信じてみようかと思えてしまった、俺の負けなのだろう。
「新枝 音!」
「……っ」
叫ぶ声が聞こえて俺は一層丸まって見えないように見つからないように奥に隠れた。
カタッ……
「おや、此処に居ましたか、音くん」
「蓮爾さん…」
猫目の彼に見つかって思わず抱き着いてしまった。スーツ姿の彼はどう見ても仕事帰りで疲れているのに甘えてしまうのは俺をあの絶望した世界から攫ってくれたからだろう。
「また久介ですか…一度叱ってやらないと」
「おい! 新枝 お……おお、首領! お帰りでしたか!」
俺を睨みつけようとした久介という蓮爾さんの部下? は彼を見た途端に目の色を変えた。
「久介、この子は私の大事な子。
変に怯えさせないで下さいと何回言えば分かるのですか」
「…、どうも自分は声が大きくて新枝お、……君を怯えさせてしまうようで…!」
「……はぁ、」
上手い躱し方を知っている久介はニヘニヘと気持ち悪い笑みを浮かべながら俺を抱いてその場を去る蓮爾さんを見つめた。