短編V
□知りたい@
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『図書室には美人が住んでいる』
その噂を今
思い出した。
現在、午後2時半。
生徒会の仕事を済ませ、図書室事務員の加藤先生に書類を届けようと自ら図書室を訪れたのだが、そこに先生は居らず。
噂となっている美人がいたのだ。
「加藤先生に御用でしょうか」
例えるならばまるで鈴のような澄んだ声。
分厚い本を何冊も抱え、こちらを見ながら彼は問うた。
「あぁ、書類を届けにな」
自分でもよく声が出たな、と。
少しだけ彼の纏う雰囲気に呑まれそうになった。
「先生は今、職員室の方にいらっしゃると思います」
そこまで言うと名も知らぬ彼は一礼をして腕に抱えている本を棚に戻し始めた。
気に入らない。
何がって。
こちらに媚びてこようとしない姿に。
俺は生徒会長であるのに。
「あの、……何か」
気が付けば彼の腕を掴んでいた。男にしては細細とした腕に気味悪さを覚えながらも俺はしっかりと彼を捉えていた。
「何か粗相をしましたでしょうか」
「気に入った」
口から出たのは反対の言葉。
しかしそれが言うべき言葉だったように俺の口角は愉快そうに弧を描いていた。
「……はい?」
彼を見ると少し困ったようにこちらを見ていた。
その事に高揚とした。
もっと。もっとだ。
もっと俺を。
「俺だけしか見えねぇ様にしてやる。覚悟しろよ」
それだけ言い残して俺は立ち去った。
すぐに振り返った図書室の中には既に本を棚に戻す彼の姿があったのだった。
End