短編V

□掌にKissを
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矢部河 紫安(やべかわ しあん)というのはこの俺の名前でありまして...少し珍しい名前にしては外も中身も平々凡々。

まぁ違うところといえばゲイで恋人あり。
その恋人というのが夜の街でNo.1ホストとして有名な來鷲 蒼(きわし あお)……通称、アオイ。


いつも女を侍らす蒼は大体疲れて帰ってくる。
自意識過剰という訳では無いが蒼は俺以外に興味が無いので心配はないんだけど


「...あのさぁ...」


「……ん?」


「きょー、蒼とー女の? ...あの金髪のヤツぅー! 近くなかった? ...いやぁ、近かったねぇ!! 蒼近ーい! 厳禁! 近いよぉ、きょーのはバッテン!」


「紫安、酔ってる?」



「酔ってないよぉ! ダメダメ! そうやって酔ってるからって返事曖昧にしちゃァ! ほら、金髪の娘には〜興味ありませんっ! ってゆーげんじっこー」


「…はぁ…有言実行って意味違うからな? …ってか山口(やまぐち)! もう紫安に酒出すな」



不安になる度にここに来るのだ。
そう、蒼の店に。
ボーイの山口君にお酒頼むと苦い顔をしながらも出してくれる。
女と街歩いてたホスト達が帰ってくると『またか』と冷やかされるけどそんなの知るか。



「紫安、もうやめとけ」

「やらぁ! ...きょーは飲むって決めたもんっ! 蒼が浮気するからァ!! やまくりくん! バーボン!!」

「やまくり君って...もう呂律回ってないですけど紫安君?」

山口君が机に水を置いたので不貞腐れながらそれを飲む。



「あおぉ、きょー蒼の家いくぅ」

「はいはい、紫安?」


あえ?眠くなってきたなぁ



「すぅー」




山口君め...水に睡眠薬入れやがって。
そう思ったが俺の意識は沈んでいった。






「頼むから野獣の前で無防備になるなって」




蒼がそう言って俺の掌に軽くキスを落とすのは気が付かないのだった。




End

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