お題小説

□恋する動詞111題
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懐かしむ】×リミテッド




一緒に酒を飲むお話















「樒、今日は非番だろ」

「うん」

なら飲もう、と脈絡のない言葉を零した親代わりを見て妙に店内が色めき立っている事に気付いた樒はその隣へ座った。

「樒、何を飲みますか?」

「今日は甘くないの。・・・それより、何かあった?」

樒の注文にかしこまりましたと酒を準備しに行ったマスターに代わり、刄が答える。

「足を洗うんだとよ」

どうやら刄と共に血生臭い道を歩んできた殺し屋の一人がそれをやめるらしい。樒はふーん、と言って刄が食べている塩辛いツマミを一つ横取りした。

「なっつかしいなぁ、アイツがこの界隈に来た時にゃあ俺もまだまだ青かった」

コトリ、

マスターが静かに酒を置いた音がした。
樒がそちらを見るといつも通り、笑みを浮かべたマスターがグラスを拭いている。

「あの頃は私がよく叱ってやりましたね」

「ああ、そうだったなぁ。アンタに口出しされんのが嫌で嫌で逃げ回ってたか」

懐かしんで話すのは樒の知らない刄の過去。

樒は酒をチビリと飲むと刄の方に目を向ける。・・・珍しい、ほろ酔っている。

「ねえ、刄」

「どうした、樒」

「もっと聞かせて」

「んん?」

「刄の、昔の話。・・・もっと聞かせて」

そう微笑んだ樒に刄はおう、いいぞ! と豪快に笑って話し始めた。時折、会話に混じるマスターや他の殺し屋達の声を聞きながら、樒はいつか自分も刄との出逢いや日々を懐かしむ事があるのだろうか、と楽しそうに、でもどこか淋しそうに話す刄の体温をしかと噛み締めたのだった。







【懐かしむ】




End
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