お題小説
□恋する動詞111題
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【諦める】×それでいいから
呼び方を教えるお話
「わ、こ……?」
「そう、和湖。お前は?」
「……ま、……ぉ?」
何で疑問形。
俺の目の前に座るのは父さんが拾ってきた大学生らしい『まお』。うちで世話をする、と言って聞かない寡黙な父はそれでも今、色んな手続きをしているらしくあまり家には居ない。
「こういう字、・・・書く・・・」
ふーん、『真弦』ね……。
母さんが良く歌ってくれていた子守唄を何気なく歌ってやれば少しだけ警戒心を解いた真弦は俺に名前を聞いてきた。
んで、冒頭に至る訳だが……。
「えっと、・・・わん、こ?」
「違う。和湖だ、わ・こ!」
「…………。……わんこ!」
ちょっと一回だけぶん殴ってもいいか。
ダメか、いや知ってた。
どうやら虐待されていたらしい、は妹の見解だ。身体中の痣がそれを物語っている。
仕方ない、とため息をついて呼び方について諦めた俺はリビングのソファをぽふぽふ叩いた。
「ほら、歌ってやるからこっち来い」
キラキラと輝く笑みを浮かべたソイツ・・・真弦はきっと血の繋がりなんて関係ない良い家族の一員になるんだろう。
なんて恋人になるとも知らない俺は呑気にそう思っていたのだった。
【諦める】
End