お題小説
□闘病中な彼のセリフ
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【少しだけ手を握ってくれないかな?】×暗闇ノ中
資料室で片付けをするお話
「柚ちゃーん、これってこっちの棚?」
「あぁ」
会議室に隣接する資料室。
そこの片付けを頼まれた会計を手伝う事になった俺は昔を思い出しながら変わってない、と少しだけ懐かしく感じた。
「この資料室、電気付けても暗いよね」
「昔ここで資料を読み耽るやつが居たからな」
「ん?」
「何でもねぇ」
そいつが読み耽るにはここは眩しいとか言って、そいつが当時の理事長の孫だったとか、そいつが当時の生徒会長だったとか。今の奴らに言っても仕方ねぇか。
「これで最後だな。入口で待ってろ」
「はーい」
そうして最後の資料の片付けを終えるとふと本棚の奥に空間があるのに気が付いた。
小さなドアと古びた長机と壊れた木の椅子。
まさか。
「こんなもん作る暇あるなら仕事しろよ…」
なんて。
古くなった長机を撫でながら今では同窓会でしか会うことのない当時の一番偉い奴に愚痴を零した。その時だった。
バタン、
と派手な音を立てて小さなドアが閉じた。
「……っ!」
「柚ちゃん? どった〜?」
やばいな、早く出ないと。こんな狭い空間に閉じ込められたりなんかしたら。
ガタッ、
大袈裟にドアノブを捻って外に出る。
手が震えて嫌になる。
「…………っぶねぇ、」
息が切れている。
まさかドアが閉まるとは思わなかった。
つーか、こんな気になる場所に部屋なんか作るなバ会長。と自分の失態を当時の仲間にぶつけた所で棚の陰から覗く顔に気付いた。
「柚ちゃん、大丈夫?」
心配そうにする会計をちょいちょいと手招きをしてガシリとその手を掴んだ。
「ふぁ、ちょっ……なに、柚ちゃん……っ!」
「ちょっと黙ってろ」
「……手握っててくらい言ったら普通に握るのに」
「うるせぇ」
いつもなら薬飲まねぇといけねぇのに。
馬鹿じゃないのか、誰かの手を握って落ち着くなんて久々だ。
全くこれも全部。
あの馬鹿な天才のせいだ。
【少しだけ手を握ってくれないかな?】
End