お題小説
□日常シーン10題
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【湿った路地裏】×リミテッド
仕事内容が被るお話
「何で刄も同じ任務受けているの」
「こっちの科白だ、樒」
薬売人の暗殺の任務。
少し高いビルから路地裏へ飛び降りようとした際に後ろからぐい、と引っ張られた。
そちらに目を向ければ呆れながらも笑っている刄が居たのだ。
任務内容が被る事は稀である。
情報屋とマスターが上手く連携して殺し屋等に仕事を割り振ってくれる。
話に聞けば樒も刄もマスターに仕事を紹介してもらったと聞く。そこまで聞いて刄は“最近樒と逢えていない”とマスターに愚痴を零した事を記憶に起こす。
帰ったら店で一番高い酒を頼んでやろうと決めて樒を見遣る。まだ半人前だった頃、一緒に殺しをしていたのを思い出してニヤリと笑う。
「今回はお前に譲るわ、樒」
「うん」
言葉数の少ない“息子”は軽々と飛び降りて颯爽と仕事を終わらせた。裏では『早業の樒』とまで呼ばれてるとは知らないのだろうとまた唇に笑みが乗る。
「刄、終わった」
「ぃよし、上出来だ」
路地裏からビルを見上げる樒に笑いかけてやってから刄も飛び降りる。少し湿った匂いのする路地裏は所々に血が飛び散っていてそこに倒れる薬売人は既に事切れていた。
ここまで育て上げた自分にも、そしてここまで育ってくれた“息子”にも労りを言うべきではないのか、とふと思う。
そうしてその考えが自分らしくないと自嘲した。
樒はそんな刄を不思議に思いながらもマスターの店に行こうと彼を促す。
「ああ、そうだな帰ろうな」
「血、べったり・・・」
「樒はまだまだだな」
ははっと笑った刄の声がやけに路地裏に響いた。その笑い声に刄の“恋人”は少しだけ拗ねたようにそっぽを向いたのだった。
【湿った路地裏】
End