お題小説

□日常シーン10題
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海辺の夕暮れ】×キミ色メール


仕事帰りのお話。















「わあ、海だ! ねえねえ、津雲! 海! 海だよ!」

「分かった、分かったからはしゃぐな」

父兄の家に行った帰り。
報告の為先に学園へ向かった部下達を追い掛ける筈がなぜこうなったのか……。



立て直し始めた生徒会から新会長が今ここで学園から離れては元も子もないという声から、じゃあ俺が行くよ〜とのんびりした声で立候補したのは会計の大門だった。
何か問題があって対処出来ないと大変だという理由で風紀委員長は残った。
風紀副委員長である俺と平風紀1名、生徒会からは大門と新副会長が。計4名で行く事になったのだ。


「なんかこういう仕事も久々だな〜」

「大門先輩、お話とか聞くの上手ですもんね」

「あはは〜、そう?」

リムジンの後ろで楽しそうに会話する生徒会。上手くやれているみたいだな。
父兄会合のリストや時間を確認している平風紀、――というものの、俺の右腕のような立ち位置にいる生徒はチラリとこちらを見てから呆れたように口を開く。

「何をニヤニヤしてんだ」

「…………、してない」

「なんだ今の間は」


────────・・・。



そんなこんなで会合も話し合いも終えたと思った時、父兄の一人に呼び止められた。
何でも俺と大門の父親と面識があるらしい。テラスでお茶でも、と誘われ無下に断るわけにもいかず先に新副会長と部下を帰らせた。

「ん〜! 風が心地いい」

「あまり離れるなよ」

「もう! 子供じゃないんだから〜」


部下を送る為に行ってしまったリムジンが迎えに来るまでの間、大門が見つけたプライベートビーチに足を踏み入れていた。
誰の持ち物かは知らないがゴミもなく、とても綺麗な場所だ。

「ひゃ、冷たっ」

「こら、制服を濡らすなよ」

「はーい」

明るく返事をした大門はそれから少し水と戯れていたがやがてこちらに近寄ってきた。

「ねぇ、津雲」

「何だ?」

「ありがとね」

「……? 何の話だ」

こちらを見ずにお礼を言う大門に首を傾げた。訳が分からない。何の礼だ?

「こういうのってメールじゃなくて直接言うのがいいって言われたし、だからありがと」

「……」

「津雲が居てくれなかったら俺ぶっ倒れてたかもだし、あんなに食べるのが億劫だったのにすごく楽しく食事できた。
……あの人達を連れ戻す事は出来なくて生徒達にいっぱい嫌な思いさせちゃって生徒会として情けなかった。それでも諦めなかったのは津雲のお陰。だからありが……っ!?」

思わず抱き締めた身体は震えていた。
俺のお陰だなんて烏滸がましい。
お前が必死に頑張ったから今の結果があるのだというのに。


「大門。まだまだ頑張らなくてはならない事がある。でも…一先ず、お疲れ様」

「……っ」

「礼を言われるような事はしていない。しかし、お前の助けになったのなら本望だ。…大門、お前が生徒会を諦めてしまわなくて本当に良かった」


そうして暫く。
大門の涙が止まるまでその背中を撫でていたのだった。





【海辺の夕暮れ】



End
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