お題小説
□電話越しに彼のセリフ
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【本当は今すぐ会いたい】×押し殺そう、この想い
会いたいと後悔しながら電話する話
今日は振替休日で学校は休み。
俺は何となく机に参考書とノートを広げて勉強していた。さっき母が買い物に行ったから家には一人だ。
先生は他校の授業見学とかいうのに連れ出されて今日は空いてないんだって。
「……xに代入…、二乗、yは……」
そんな計算をしながら文字がノートを半分ほど埋めた時だった。
〜♪︎
着信音が静かな部屋に響いた。
俺はシャーペンを置いて画面を見る。
「先生だ、」
驚いて時計を見遣ればそろそろお昼時。
終わったら連絡する、なんて言ってたけど我慢出来なくなったのかな。
「はい、もしもし」
『彩水、帰りたい』
「あはは、そんな事だろうと思ったよ」
『……、ダメだな』
先生はそう呟いて溜息を吐いた。
「……? どうかした?」
『声聞いたら会いたくなる……、……うわー、授業見学なんて来るんじゃなかった…』
「あ、はは・・・・・」
おい教師。
なんて俺も一緒なんだけど…。
本当は俺はすぐに会いたいよ、なんて。
「じゃあ早く帰ってきて。そろそろ勉強の息抜きしたかったし」
『何だ? 振替休日くらいだらだらしてろよ、優等生』
「そろそろ実力テストでしょ。……あ、チャイムじゃない?」
電話の向こうで少し音の違うチャイムが聞こえる。先生の嘆く声が聞こえて苦笑いが零れた。
『彩水』
「んー?」
『頑張ってって言え』
「うわ、命令形。…………頑張ってね、望」
『え、ぅわ、ちょ、……あ、』
何か言われる前に電話を切る。
さて、先生が仕事を終えるのが楽しみだ。
そう笑ってからまたシャーペンを手に取ったのだった。
【本当は今すぐ会いたい】
End