お題小説
□過保護な彼のセリフ
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【この先もお前から目が離せそうにない】×リミテッド
刄が樒を物凄く心配するお話
優しいジャズ調の音楽が流れる店内にとある男の怒号が響いたのは酷く暑い夏の事だった。
「樒ッ!」
男──刄は肩から血を流しながら鬼の様な形相で我が息子を探していた。
当の本人はケロッとした様子でマスターの入れたバーボンを飲みながら刄を見ていた。
「お前はッ……!」
店内にいた他の殺し屋達は巻き込まれるのはゴメンだと我先にと店を出ていく。
樒はそれをチラリと見てから立ち上がり、真っ直ぐ刄を見据える。
「良かった……!!」
事の末を見守っていたマスターは「またか」と肩を竦めてグラス磨きを始めた。
「どうし、たの?」
両肩を持たれた樒は呆れたように刄を見遣る。
「依頼先の富豪がお前を気に入ったって言ってきて…この前の……、この前のご奉仕は見事だったとか! ……お前!まさか!」
「あぁ──、掃除だよ。…殺しよりは簡単だったし、猫とも遊べたし」
「掃除?! お前そんな、そんな卑猥な……! ……ネコって、おまっ! そっちだったのか?!」
取り敢えず刄が変態な誤解をしている事だけは分かったマスターは彼に弱い酒を差し出してやる。
樒は刄が怒っている理由は掴めなかったがマスターが介入してきた事により、この話は終わりなのだと刄から逃げ出し、酒を呷る。
「くそっ……! このままじゃ、樒を独り立ちさせることが出来ねぇ……!!」
ブツブツと呟いている刄を横目にマスターは誰にも気付かれずそっとため息を吐いたのだった。
【この先もお前から目が離せそうにない】
End