お題小説

□指に触れる愛が5題
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薬指にくちづけを】×しょうがない、許可する



指を怪我してしまうお話










「彩里様」

「何だ、雨河」

「そろそろ休憩を挟むべきです」

「さっき10分休憩を挟んだ」

「彩里様の“さっき”は5時間も前の事なのですか?」


風邪でぶっ倒れた父親の仕事を略奪した俺は自室に篭もり、黙々とそれを片付けていた。全く自己管理のできていない…。仕事ばかりで休憩も入れずに…アンタの執事の胃が心配だ。


「この山がひと段落したら」

「同じ科白を5時間前の休憩前にも聞きました」

「………俺を甘やかすな、雨河」

「甘やかしも執事の心得でございます」


あー言えばこー言う。
全く誰に似たんだか。

書類越しに睨んでやれば涼しそうな顔で立っている。…視線をずらせば綺麗に仕分けられた書類の山。

「…………雨河」

「はい」

「今日は茶菓子も欲しい気分だ」

「了解致しました」


パタンと極力音を立てずに出ていった雨河はきっと休憩の準備をしに行ったのだろう。
あの態度と言葉には多分一生勝てないんだろう。

「……って、」

紙束で薬指を切ってしまった。
血はそこまで出ていない。絆創膏は何処に仕舞っていたか…。

かちゃ、

扉の開く音がした。
カートを押して入ってきた雨河は棚を開いている俺に首を傾げた。どうされましたか、なんて書類を片付けた机に紅茶と菓子の乗った皿を置く様は有能な執事そのものだ。

「指を切った」

「……どの御指です」

「薬ゆ……っび…おまっ、やめろ、」

信じられない早さで近寄ってきた雨河は俺の左の薬指を手に取るとそっと口付けた。
そして、ぺろりと舌で滲み出た血を舐め取った。

「離せっ」

「失礼、下手に消毒をするより舐めた方が治りがお早いと仰られたのは幼い頃の彩里様でございます」

「だからって実行しなくてもいい……っ」

「絆創膏でしたらそちらの棚の右側、二段目の引き出しに入っております」

なんてのうのうと言ってのけた執事は紅茶が冷めてしまいます、と少し意地悪く言ったのだった。




【薬指にくちづけを】



End
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