短編

□食べさせて下さい
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あー…頭痛い。



小さな鳥がピチチと鳴いた午後の1時。
白いベッドの上で俺、永崎 辰巳(ながさき たつみ)は風邪を引いて熱にうなされていた。


「……あっつ……」



ガチャ




不法侵入の音がしたぞ。
今日は母さんも父さんも帰ってこない。
こんな時に来るって言ったら……













「馬鹿は風邪引かないってのは迷信だな」















出た。

幼馴染みの浜山 那美(はまやま なみ)
女みたいな名前だけどれっきとした男。
んでもって不良でツンデレ。







「うるさーい。文句言いに来たなら帰れ」


「ちげーわ、阿呆」


「ヨーグルトがいい」


那美が持ってたレジ袋からプリンと雑炊パックを取り出した。
プリンじゃなくてヨーグルトが良かったのに。


「厚かましい………治ったら買ってやるよ」


うるうるした目で那美を見つめると買ってやる発言!
やっぱり那美は俺のうる目に弱いなぁ。


「それよりさー、那美ー水ぅ」

「あ?」

「体……熱い…」

「チッ、先に言え阿呆」



那美が舌打ちして部屋から出ていった。
少しすると水の入ったコップを持って来た。


「ほら、飲めるか」

「分かんな…あプッ」


那美は強引に俺の口にコップを付け、傾けた。鼻に水入ったんですけど…。


「ケホ…ケホ…、もう! 何すんだよ・・」

「あ? んだよ、飲ませてやったのに文句あんのか?」

「ありまくりだわ! この不良!」……なーんてことは言わないよ。
だって怖いし、喉痛い。


────────、


「んぅ……」


あれ、俺寝てた?


ベッドの横にある勉強机の上に置いてある目覚まし時計を見ると午後4時15分を差している。

寝すぎた……。

頭痛ぇ……。









「起きたか」






「え、那美。…まだいたのか」







「何だよ、帰ってほしいって?」

「いや、そういう事じゃなくて時間大丈夫かなって思ったんだけど」




「いいよ、そんなの。今日お前の親帰らねぇんだろ?」

「そうだけど……」

「病人置いてけるかよ。馬鹿かお前は」



那美は俺の額にデコピンした。

うわ、若干痛い。



「何か食えるか」

「んー、食べる・・・」



あれ、那美の顔が赤い…。
風邪うつした?



「待ってろ」

「ん、」












「ほら」













いや、那美さん。

手に力が入らないのは見てわかるでしょ。

那美を見ると『何か言え』と鋭い目を俺に向けていた。
言わなきゃ食べられないの?!
何!? 罰ゲームか何かですか?!


















「た」






「た?」












「食べさせて」





「食べさせて?」







え、ダメなの?

これ以上何を付け足せって言うのさ!


何? 敬語を使えと?
俺はお前の下僕かなにかですか?

とりあえずお腹を満たさなきゃ空腹で死にそう。
背に腹は代えられない・・・!





「食べさせて下さいっ」

「よくできました」
























次の日には風邪も完治していた。

え、食べさせて下さいの後が知りたい?

無理矢理口に入れられましたとも、えぇ。


あれはホントに『食べさせて』下さいだったなぁ。


まぁ









俺の風邪が移った那美に仕返ししたのは言わんでも分かってね?



End

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