短編
□取れたボタン
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俺は生まれてすぐに捨てられた。
だから親の顔も知らないし自分の名前も知らなかった。
でもひとつだけまだ赤ん坊の俺にわかったのは…
とても寒かったこと。
「白楽ー! 早く来いよー!」
「まってよ、たいがさん!」
「にぃさん! 置いてきますよ!」
大我さんの家に引き取られて理峰組に入って俺の生活がやっと少し色付いて来た時にソレが起こった。
「新神…白楽くん?」
「うん。おじさん、だれ?」
「君の本当のお父さんって言ったらわかるかな?」
「おとうさん…? ほんとうの? ……ちがうよ、おれのおとうさんはたいがさんのおとうさんだよ」
「そうか。じゃあ「誰だよ、おっさん」………チッ」
大我さんが俺の親と名乗る男の前に立ち俺を隠した。
「にぃさん、大丈夫っすか。変なことされてないっすか」
弥夜が俺の体の隅々まで見てる。
「たいがさん。そのひと、おれのおとうさんなんだって」
「へぇ。そうなんだ。おかしな事もあるもんだなぁ、おっさん」
その時の大我さんの顔は俺からは見えなかったけど『余計なこと言ってんじゃねぇよ』ってお怒りモードだったんじゃないかな。
だって男の顔がどんどん青白くなっていくから。
その後は大我さんに連れられて溜まり場に戻ったけど…俺には『お父さん』という言葉がどうしても忘れられなくて。