Story F

□好き
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あちこち走り回った。
どこにもあいつはいない。
何回も電話をかけるがやっぱり出ない。



あの告白から1年。
春とは言えまだまだ肌寒い。
外にいるなら寒いんじゃないか。あいつ、今日薄着だった。
たらりと額から落ちてくる汗を拭ってまた走り出す。









どこにもいない。見つけられない事実にどこか焦ってしまう。
1年も一緒にいるのに俺はあいつの行きそうな所もわからないのか。


走りすぎて胸が痛い。
どんどん流れていく汗も気にしていられない。




ついに学校の前まで来てしまった。
ふと、なんとなく。プールに足が向かう、あいつがいそうな気がして。











「・・・おい」


「・・・遙」



やっと見つけたあいつは目を真っ赤に腫らしてプールサイドにあるベンチに座ってプールを眺めていた。



「探した。すごく、心配した。いきなり家を飛び出すな」



「うん、ごめんね」


違う。謝ってほしいわけじゃない。
やっぱり言葉が足りない自分に苛立って心の中で舌打ち。



「いや、・・・悪かった」



ちらり、あいつが俺の方を向いて俯いた。


「ううん。私もごめんね、遙は水が好きなのに、邪魔して・・・」





思い出した。
俺が水風呂に浸かっていると、風邪引く!と俺を風呂から出そうとしたのを俺は手を振り払ってしまったんだ。


昨日凛に聞かれた、将来について
頭の中がぐちゃぐちゃで
漠然としかわからないことを、
考えをまとめたくて。



邪魔だったわけじゃない。
本当にただの八つ当たりだ。
自分の考えがわからない、まとまらなくてイライラして
当たってしまった。



「お前は何も悪くない。全部俺が悪いんだ。考えがまとたらなくて八つ当たりした。ごめん」



座っている前に膝をついて、顔を覗き込む。こんなに泣かせるなんて。
頬に手を添え涙を拭う。



「昨日進路について聞かれて、考えてたんだ。このまま競泳を続けるのか。わからなくてモヤモヤして、でも答えが出なくてお前に当たった。本当ごめん。でも、俺は1年前からお前を思う気持ちは変わってない。好きだ。」




風呂場で払ってしまった手を優しく包み込む。
閉じた目からどんどん新しい涙が生まれていく。それをそっと拭ってやる。



「あの日、泣かせない、守りたいって決めたのに・・・泣かせた。俺のこと嫌いになったか?」



そっと目が開いて、俺の目をジッと見つめてから首を横に振ったことに安堵した。


「嫌いになんてなれないよ。わたし、遙の、こと、だいすきだもん」


遙こそ嫌いになってない?


不安気に揺れる瞳に、俺はそっと体を抱き寄せた。


「なるわけないだろ、好きだ。あの時より好きになってる。離したくない。だから家に帰ろう」


風邪引くぞ。
そう言ったら、クスッと笑って

水風呂に入ってる遙の方が心配だと言って立ち上がって俺の手に自分の手を絡めてきた。





「見つけてくれてありがとう。家飛び出して心配かけてごめんね。遙が怒鳴るとこ初めて見たよ。話し聞きたくてお風呂から早く上がるように急かしちゃった」


「悪い・・・」


「私、これからも遙を心配するよ?私じゃ遙の力になれないかな?」



この時初めて、こいつは最初から全部気づいていて心配してくれていたのだと気付いた。







今日もまた一つ好きになる。












END


1期で凛ちゃんの涙に動揺したハルちゃんより(笑)
ハルちゃんは冷たく見えて愛情深いと思う。ここぞって時はちゃんと気持ちを伝えられる子だと思う。
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