Long Story F

□愛してるから。
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買い物袋を玄関からすぐのところにある冷蔵庫の前に置いて、少し大きくなってきたお腹をさすりながら、ソファーに体を預ける。



前住んでた家より少し広くて、でも建物自体は古くて床が軋むところもあって。
この町に来て3ヶ月。少しずつこの生活に慣れてきた。


地元の岩鳶町を思い出す町並みにここでならやっていけると、引越ししてきた。大家さんがとても親切な人で、いろいろとお世話をしてくれて、おかげでご近所さんにも知り合いができた。




両親が残してくれた、私の名前の通帳にたくさんお金が入っていて、今までは学費に使っていたけれどこれからは生活費にあてて行く予定だ。



7ヶ月に入ったばかりのお腹を内側からポンポンと蹴られて少しずつ成長しているんだと実感して優しくなでる。




性別は前回の検診でわかっているが、私は産まれる時の楽しみとして、聞いていない。

どちらでもいい。元気に産まれてきてくれるなら。
いっぱい愛情を注いで、大切に大切に育てるから。頑張るから。
パパの分の愛情もママがあげるよ。
寂しい思いはさせないから。






窓際のチェストの上に一つだけ飾ってある写真立てに、遙と真琴と3人で高校の卒業式の時に撮ったものを入れてある。
何も知らなかったこの頃。
まさか、遙と離れるなんてちっとも思ってなかった。
毎日が楽しくて輝いて見えた。




遙と真琴には、何も言わずに引越ししてきた。
だけど私の親代わりだった真琴のおばさんにだけは電話をして、遙のおばさんにも言ってもらうように頼んだ。


学校を辞めること。
他に叶えたい夢ができたこと。
岩鳶には帰れないこと。
おばさん達には会えないこと。
どうしても全ては話せないこと。
遙と真琴に何も言わずに去ること。
2人には内緒にしてほしいこと。



泣きながら伝えた言葉達をおばさんは静かに聞いていた。
怒るでもなく、呆れるでもなく。
一つだけ条件を出した。


月に一度だけ連絡をすること。


もしかしたらおばさんは、なんとなくわかっていたのかもしれない。
追求せずにそう言ってくれた。
そして電話を切る間際にも、辛くなったらいつでも帰っておいで。と言ってくれた。

私は小さく、嗚咽を堪えながらうん、うん、と返すのが精一杯だった。
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