Long Story F

□愛してるから。
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あれから一ヶ月。
遙は毎日メールをくれた。
週に2回ほどの電話に私は驚くほど気を許せた。
週末は1、2時間程度会って、遙の優しさに触れてさらに好きになった。







それと同時に、体は日に日に不調になる。ここ一週間は何も食べられずに、ゼリーや水分補給が精一杯だった。
熱があるわけでもない。


気持ち悪さだけが胸を渦巻いて、ついには嘔吐。
さすがに危機感感じて訪れた病院で、耳を疑う診断結果。







「妊娠してますね。おめでとうございます。」





柔らかい笑顔を浮かべたおじいちゃん先生が、私の顔を見て笑顔が沈む。



「相手の人とよく話し合って産むのか、どうするのか決めて、産婦人科で改めて診てもらってください」


うちは内科で診てあげられないからね。と悲しそうに先生が笑った。






ぼんやりとした頭でお会計を済ませて病院を出る。


先生の、言葉が頭の中でぐるぐる再生されるばかりでちっとも理解できない。



私が、妊娠?
どうして。




家に向かう足が止まってハッとした。
3ヶ月前の遙との出来事が蘇る。
あんな愛もない行為で、妊娠してしまったのか。
思わず俯いた。


遙は、何て言うだろう。
水泳の方は少しずつ調子を取り戻したらしく、リレーの選抜にまた選ばれたんだと3日前会った時に嬉しそうに言っていた。


小さい頃から大好きだった遙。
ずっと大きくなったら遙と結婚するんだと言っていたことを思い出した。


このお腹に遙との赤ちゃんがいるんだ。優しくお腹を撫でた途端に愛おしさが込み上げて涙が出てきた。



私、遙との赤ちゃん妊娠したんだ。
たとえあの時愛がなかったとしても、この小さな存在がとても愛おしい。
嬉しい。




だけど、遙には水泳の将来がある。
高校時代に仲間とぶつかり合って、悩んで、迷って、皆に支えられてやっと見つけた道。
今も壁を乗り越えようと頑張ってる。


もし、妊娠のことを言ったら遙は・・・?
どんな顔する?
どう思う?
ショックを受けた顔だったら?
産むなって言われたら?
私ごといらないって言われたら?

私が産みたいなんて言ったら、遙は責任をとって水泳を辞めて私といることを選ぶんじゃないか。


私は遙の邪魔になる。

頭の中でいろんな考えが溢れてきて、気持ち悪くなった。





怖い。
遙に捨てられるかもしれない。
遙の将来の邪魔になるかもしれない。



だけど、遙との赤ちゃんを堕ろすなんて。
でも私には頼れる人がいない。
どうしたら、どうしたら遙の邪魔に、迷惑にならない?





どんどん気持ち悪くなって、その場にしゃがみ込んだ。
吐き気をすぐそこに感じて、カバンの中から水を取り出して飲み込む。
冷や汗がポタリと地面に落ちた瞬間背中に暖かい感触。



「・・・名前?」


俯いていた顔をあげて確認するけど、気持ち悪くて言葉が出ない。

私の目線に合わせてしゃがみ込んだ、見知った顔を見て安心したのかふらっとその胸に体を預けた。


「え、名前!?大丈夫?!顔色悪いよ!ハル、呼ぶよ?」


小さく頷くと真琴は電話をかけ始めた。
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