Story F
□好き
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泣かせてしまった。
何が原因でここまで喧嘩してしまったのか思い出せない。
それほど些細なことだったんだろうか。
いや、泣かせてしまった衝撃が大きすぎた。
喧嘩は今までもしてきた。
言葉が足りない俺は何回も傷つけては、この状態になってやっとわかるんだ。
でもあいつは今まで泣いたことはなかった。どちらかと言うと最初に折れて謝って仲直りのきっかけを作ってくれる。それが今回は泣かせてしまった挙句、荷物を持って俺の家を飛び出した。その行動に呆気にとられている間にその背中は階段の方へ消えていった。
ハッと我に返り追いかけて玄関を抜けるがどの方向へ行ったのかすらわからなかった。
バカか俺は。
滅多に使わないケータイから電話をかけるが出る気配はない。
不安が一気に押し寄せる。
元々1年の時に同じクラスになって、3学期の最後の席替えで隣になったあいつはサボりがちな俺を何かと心配をしては世話を焼いた。
表情があまり変わらない俺にあいつはいつもニコニコ笑ってて、いつの間にか好きになってた。
自分の気持ちに気付いたら自分だけのものにしたい、俺に、俺だけに笑ってほしい。独り占めしたい。
そんな気持ちでいっぱいになり、1年最後の登校日に俺から告白した。
目に涙を浮かべてすごく嬉しそうな顔で、返事をくれたあの日を昨日のことのように鮮明に覚えてる。
この笑顔をいつまでも近くで見たいと、守りたいとあの日決めたのに。
玄関から飛び出した位置で俺は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
あいつが行きそうなところ、
頭の中を色んな景色が通り過ぎる。どれもピンと来ない。
もしかしたら意外と近くにいるのかもしれない。
俺は鍵をかけるのも忘れて目の前の階段を駆け下りる。