Story F2

□捕まえたい背中
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別れよう

そう言われて頭が真っ白になった。
受け入れたくなくて逸らした視線に、しまったと思った時はもう遅くて。
本当は、名字が俺を好きになるより先に、俺が名字のことを好きになった。
それまでは自然に出来てたことが、意識しすぎて付き合い始めてから普通にできなくなっていった。
嫌われたら、どうしよう。
自分の自由の時間を大切にしたい気持ちと、名字を大切にしたい気持ち。どちらも大事でどうしていいかわからず、そんな女々しいことを思うようになった。
誰にも相談できずに、特に解決策が見つかるでもなく、思わず冷たい態度をとって、それでも離れていかないか試すような真似をすれば名字に限界が来たらしく終わってしまった俺たちの関係。
引き止めたい気持ちはあった。だけど、俺といて辛いんだからこのまま一緒にいても意味がないと、出て行く背中を見つめるしかなかった。
こんな俺に引き止める資格はなかったんだ。

俺が変わるしかない。
変わって、今度は俺から気持ちを伝える。でも具体的に何をすればいいのかわからず、もたもたと1ヶ月が過ぎた頃に真琴から告げられた。
「実はハルと名前ちゃんが付き合う前から、名前ちゃんのこと好きなんだ。ハルがいいなら俺、頑張るね」
真琴にしては珍しく強気の言葉。質問じゃなかったのは、たぶんまだ俺が名字のことを好きだと真琴は気づいていたから。だから否定する俺の言葉を聞かないために強気の言葉だったんだろう。
そんな俺は否定も肯定もできずに俯いただけだった。




その日から真琴と名字が一緒にいるのをよく見かけた。
気持ちを名字に伝えたい思いと、俺より真琴の方が名字を幸せにできるんじゃないかと思う劣等感。相変わらず動けずにいる。
俺はどこでどうすれば良かったのか。そんなこと繰り返し考えながらぼやけた毎日を過ごしてる。


結局俺は、動き出せなかった。

「名前と付き合うことになったんだ。無理にお願いして条件付きだけどね。」
なんて笑顔で報告する真琴。その後どんな会話をしたかなんて覚えてない。
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