Story F2

□すべて閉じ込めて見ないフリ
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最近は1日に2人と会ってはお金をもらってる。
受験勉強をしつつ睡眠時間削って会ってるからキツイ。
さらに本格的に夏が始まって追い討ちかけるように夏バテに。
早く夏休みになればいいのに。なんて7月に入ったばかりの手帳を見てボヤいた。

「名前、行くぞ」
駅で見られたあの日から問い詰めて来ないものの何かを察した彼らは見張るように私に纏わり付いてくる。
構うなと言えば、友達になりたいんだと言った2人。あの、ただのクラスメイトって言葉が気に入らなかったらしい。
でも一方的に纏わり付くだけじゃ友達とは言えないけどね。
それに、元カレのキミに心配なんかされたくないんだけど。
見張られた生活に少しずつ溜まるストレス。
「私帰宅部なんだけど」
「だから部活見てろ」
「時間がもったいない」
「・・・」
「だったら部室で受験勉強すれば無駄にならないよな?」
ニッコリ笑う橘くんに頭が痛くなる。
わかってる。一緒にいる時間を増やすことで私の行動に制限をかけたいんだよね。
だから最近夜動いてるんだよ。


しんとした部室に練習する水泳部の声。暇だしおとなしく問題集を広げる私。何で言いなりになってんだろ。帰ろ。
カバンに荷物を詰め込んでたら着信。
いつものとこで待ってる。そう言われたなら私は向かうだけ。
カバンを肩にかけて静かに部室を後にした。






「今日もあの角まで?」
いつもの気持ち悪い匂いに包まれた車内。黙って頷けば、手強いなーって笑われた。
いつも通り。
別れ際にキスして、お金もらって、車から出る。角を曲がる車を見送って家路につく。
いつも通り。なのに、何か違う。
今までなかった胸の中がモヤモヤする感じ。原因はきっとあの2人に関わりすぎたからだ。
何感化されてるんだよ、私。
すっかり暗くなった空。
今日は勉強なんてする気分じゃない。
一度お風呂に入ってからまた出かけようか。
家の鍵を回して扉を開ければすぐそこから乱れた呼吸で私を呼ぶ声。
何なの。ただの友達ならほっといてよ。
「お前っまたあいつと会ってただろ!」
いつの間にか夏へと変わった景色、温度、夏の匂い。
またこの季節が来た。
どうしてまた遙に心を乱されないといけないの。向き直って怒りを隠しもせずにぶつけた。
「だから遙には関係ないでしょ!自分から離れて行ったくせにっ、今更構わないでよ!」
夏なんて、嫌いだ。
早く、早く季節が過ぎればいい。
二度とこんな思いしなくてすむように、早くここから出て行きたい。

ふわっと香る匂い。
鼻をかすめたと思ったらあっと言う間に抱きしめられた。
押さえつけられた制服の胸元から懐かしい遙の匂いがする。
直接耳に響く速い鼓動。肩で息をする様子から走ってきたらしい。
「別れた時、名前のこと好きだったんだ・・・」
突然出た言葉が真っ白になる。
「でも俺は名前より泳ぐことを優先したかった。目標ができて今まで以上に水泳が楽しく感じた。名前に構ってやれなくなるのがわかってたから、だから別れたんだ。」
初めて聞いた理由。知らなかった。
でも確かに水泳部を立ち上げてから遙はそっちに夢中だった。寂しくおもうこともあったけど楽しそうな遙見たら私だって嬉しくなって、応援したい気持ちが強くなった。
新しい遙が見れて嬉しかったのに。
ボヤけた視界に無意識に溜まった涙。初めて自分が泣いてることに気づいた。
あの頃みたいに温かい気持ちが溢れて涙が止まらない。
本当はあの時、嫌だと言ってすがりつきたかった。だけど弱い私はそれから逃げて無理矢理蓋をして閉じ込めようとした。
もし、あの時言えてたなら違った今があったのかな。
「なんで、今、そんなこと・・・言うの」
堪え切れない声の震えに、遙の抱きしめる力が強くなった。
「・・・今も好き、だから」
体の奥からどんどんでてくる想い。結局閉じ込めることができずに、見ないふりをしてただけなんだ。
私だって、ずっと好きだよ。でも、私は遙と一緒にはいられない。
あの頃みたいに純粋ではなくなってしまった。
「私の気持ち、は、どうでもよかったんだ、ね」
「っ名前っ!」
「遙の気持ちを知れて良かった。ありがとう。でも私、遙のこと、もう何とも思ってない、から・・・」
チリチリ焦げるように熱くなる喉。これ以上泣いてしまう前に離れたい。
体を離そうと身をよじる前にかすかに聞こえた声。
「俺のこと、嫌いでもいい・・・だけど、あんなこと・・・するな」
聞いたことない、耳を澄まさないと聞き取れないような、弱々しい言葉。
驚いて顔を見上げれば、眉を寄せて苦しそうに歪んだ顔。
焦って思いっきり体を押すと簡単に腕は離れた。
どうしたらいいのかわからずに逃げるように家の中へ入って鍵をかけた。
忘れられたと思ってた気持ちがこんなにも簡単に蘇るなんて。
「はるかぁ・・・」
名前を呼ぶだけでキュッと胸の奥が締め付けられた。
諦めないと。こんな身体で昔みたいには戻れない。
今日のことは忘れよう。全部、全部、遙の気持ちも私の気持ちもなかったことにしよう。
大丈夫。いつも通り。遙とは関わらない日常に戻るだけ。
「うぅ・・・」
私も好きだなんて絶対言えない。
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