Story F2

□すべて閉じ込めて見ないフリ
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こんな私にも将来の夢があるわけで。
進路希望調査票に東京の大学の名前を書いて提出。
勉強はそこそこできるから苦労はしなくてすみそうだ。
早くここから出たい。
ここには純粋な気持ちが所々に染み付いてて嫌になる。



「家こっち?」
ホテルからの帰り道。10歳離れたお兄さんの車で送ってもらってる。
車内に充満するタバコと芳香剤の匂いが混じってちょっと気持ち悪い。制服にこの匂いがしみついてるのかと思うと気が重くなる。
家がバレたら面倒だから断ったけどしつこかったから仕方なく。
学校の最寄駅でいいと言えば渋々車を停車させた。
「また会ってくれる?」
「気が向いたら」
そう言うと助手席へ身を乗り出してリップ音を立てて離れた唇。
嫌悪感はない。
「はい。今のキス代込みな」
黙って受け取って薄暗くなった外へ出ると、むわっとした初夏の空気に包まれた。
何も言わずにそれをポケットに入れる。
短く挨拶して車が見えなくなるまで見送った。後つけられたらヤだし。
角を曲がって見えなくなったことを確認してからポケットから引っ張りだす紙切れ。
「3万・・・」
皆だいたいこのくらい。
気前がいい人とか、私を気に入ってくれた人は5万くれる時もある。
数時間でこんなに稼げるんだから普通のバイトするのがバカらしい。
それぞれ毎晩遊び回って3日に1回しか帰ってこない両親は東京の大学へ行くことを認めてくれた。ただ金銭面の支援は一切しない。そう言われてしまえばお金を稼ぐしかなくて。
何となく受け取ってきたお金。これからは進学のために、ここから逃げ出すために貯めなければ。
だけどまだ足りない。
1日1人じゃ足りない。
人数を増やそうかな。
くしゃっと弱く握りしめたお金をポケットに入れようとして、後ろからその腕を掴まれた。
「何してんだ」
すぐ後ろで聞こえた声にドクリと嫌な音。腕を上げられて、これは何だって咎める声。
睨みつけるような視線を感じて合わせればあの日以来初めて重なった。
「・・・お金だけど」
淡々と答えると、加減なしに腕を握られて痛みが走る。小さく、痛いって漏らしても力は弱まることはない。
「さっきの男からもらってただろ。」
あー、面倒くさい人たちに見つかっちゃったな。
「私の事なんだからはる、七瀬くんには関係ないでしょ。」
突き放すように言えば綺麗な顔が歪んだ。悔しいって思ってる顔。わかるよ、1年間付き合ってたんだから。
昔はその顔見るの苦しかったんだけどなぁ。チクリともしなくなった胸の奥に安心した。
「離してよ。私帰りたいんだ。」
「っダメだ」
「なにそれ、意味わかんないよ」
面倒くさいのを隠しもせずに大きく息をつけば黙ってたもう一人が口を開いた。
「名字さん、何か危ないことしてるんじゃない?」
怒ったような表情と声色。
そんな橘くんの後ろには後輩3人。
駅で降ろしてもらったの失敗だったな。次からは気をつけよう。
「別にしてないよ。」
「っ、じゃぁ何でお金っ」
「そんな踏み込んだ質問してくるの?聞かれたら全部答えないといけないの?ただのクラスメイトに」

緩んだ腕をポケットに突っ込んで駅を出た。
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